Research Abstract |
医薬品研究開発効率の向上には,技術イノベーションだけではなく,社会的分業,需要要因,市場競争などの「制度イノベーション」が必要である。本研究は過去20年に世界で開発された医薬品800件の医薬品属性,研究開発,特許,論文,研究者,企業等のデータを収集整理したデータ・ベースを作成し,医薬品研究開発のプロジェクト・ヒストリーを統一的指標で明らかにし,研究開発の社会的分業を技術革新と移転について数量化し,医薬品研究開発の効率性低下の現状と原因に関する経済的分析を行った。 「第1の個別研究」では,医薬品研究開発費用のシミュレーション分析により,1990年代以降の研究開発費用の上昇原因を再検討した。「第2の個別研究」日本で開発された代表的医薬品数件を対象にした事例研究を行った。糖尿病治療薬,免疫抑制剤を対象とした。さらに,研究開発プロジェクト・ヒストリーを明らかにした。とりわけ研究開発段階ごとに関与した研究者,企業,大学,研究機関等を特定した。ここでは特許情報,論文情報,ライセンス契約等により,研究開発主体の相互依存関係を調べた。これによって医薬品研究開発の社会的分業と,開発の成否を左右する決定要因を検討した。「第3の個別研究」データ・ベースを利用して,世界の医薬品の研究開発過程を統計的に整理し,その「様式化された事実」を明らかにする。医薬品研究開発が,国際的に,企業主体を超えて,広範な社会的分業によってなされるのか,あるいは特定地域の特定企業を中心にした狭い社会的分業によってなされるのか等の仮説を検証することができる。この社会的分業に加えて,各国の医薬品価格,市場規模といった需要側の要因を加え,さらに企業規模,独占,寡占,M&A,企業提携,価格競争といった市場競争を強調して分析が必要である。また,世界で承認された医薬品が日本において承認時期が遅れる現象について分析する必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度の3年目に,データ・ベースの整備を行い,個別研究を再検討することで,研究を完成させる。また,個別の医薬品開発の技術的側面について,研究代表者に欠ける専門技術的知識について,実際に開発を行っている博士課程大学院生を雇用して,論文情報の整理,医薬品開発のプロジェクト・ヒストリー等を,技術的側面から整理する。
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