Research Abstract |
平成23年度は主に,電力とガスの需要の代替性とその決定要因に関する計量分析を行い,エネルギー間競争を評価するための指標の検討を行った。具体的には,都道府県別の家庭用の電力および都市ガスの需要のデータを用いて,代替の弾力性が相対価格に関しては一定だが地域特性に依存すると仮定した需要関数を推定し,エネルギー間競争を促す要因を明らかにした。一般家庭における電力とガスの主要な用途やオール電化住宅の普及状況に関する各種文献調査により,電力とガスの需要の代替の弾力性は,気候条件,世帯人数,高齢者人口,新築住宅の割合,世帯所得に依存するという仮説を構築した。1996年から2008年の13年間のデータを用いて,各都道府県の個別効果を考慮したパネルデータ分析を行った結果,代替の弾力性を表わすパラメータは統計的に有意で,サンプル平均では0.11~0.14程度となる(電力とガスの相対価格が1%変化した時に電力とガスの需要の比率が0.11~0.14%変化する)ことが分かった。また,暖房度日が大きい寒い地域,世帯人数が多い地域,高齢者人口が多い地域,新築住宅の割合が高い地域,世帯所得の低い地域において,代替の弾力性は大きくなることが分かった。すなわち,こうした属性が見られる地域において,家庭用の需要家のエネルギーの選択は電力とガスの相対価格により敏感に反応し,エネルギー間競争を促進しやすいと考えられる。この分析結果については,推定手法などに改善の余地も残されているが,少なくともこれまで定性的な個別事例による指摘にとどまっていたエネルギー間競争を促す要因について,それらの実際の影響を計量経済学的手法によって確認できた点で意義がある。また,日本のエネルギー間競争の状況を把握する上で,これらの要因による影響を考慮することが必要となることを示した点で,競争当局などにとっても重要なものと考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
エネルギー間競争を促進する要因について,需要関数を用いた計量分析を行う当初の目的はある程度達成できた。経営の効率性に与えた影響については,データの整備などの分析の準備を整え,まだ予備的な分析結果しか得られていないが,本格的な分析は平成24年度にかけて行う計画であり,特に遅れているわけではない。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は,これまでに明らかにしたエネルギー間競争を促進する要因を踏まえ,それらが主に中小都市ガス事業者の効率性に与えた影響について実証分析を行い,分析結果を論文にとりまとめる。エネルギー産業の融合の大手都市ガス会社への影響については,計量分析ではなく,事例調査による考察を行う。また,東日本大震災によりエネルギー産業を取り巻く環境は大きく変わったため,過去のデータを用いて得られた分析結果から今後の政策的含意を得るためには,震災後の状況を文献調査等によって把握しておく必要がある。
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