Research Abstract |
本年度は,企業財務の領域において,経営戦略と不動産戦略を考えるためのベースとなるモデル分析とデータ収集に加え,試験的な実証研究を試みた.わが国の企業金融は,銀行貸出をベースとする間接金融の比率が高い.そのため,債務超過に陥った企業は,銀行との間で負債契約の再交渉を行い,債務免除を受けることが少なくない.バブル崩壊後の不動産関連企業の財務的な特徴の一つが,銀行との債務免除であった.債務免除の交渉を行う際には,不動産などの有形固定資産を保有していることが有利になる.Isagawa,Yamaguchi and Yamashita(JFR)では,債務免除が合意しやすい条件を理論的に明らかにし,債務免除の前後における資本市場の評価について検証した.実証研究のサンプルには,大京,アーバンライフ,東和不動産,長谷工,ミサワホームダイヤ建設など不動産関連企業が多く含まれている.標準的なイベントスタディの方法を用いて行った検証の結果,理論モデルが予測する通り,債務免除の合意というイベントに対して,不動産企業を多く含むサンプル群の株価は上昇した.同時に,債務免除に合意した銀行の株価もある条件の下では上昇した. 砂川(企業会計)では,企業価値を測定するフレームワークの再検討を試みた.そこでは,ゴーイング・コンサーンを前提とする限り,割引現在価値方が有効であることを示した.割引現在価値の考え方は,40年以上もの間変わっておらず,将来的にも企業価値評価のフレームワークとして,用いられるであろう. 砂川・福島(不動産証券化ジャーナル)では,企業の不動産戦略をコーポレートファイナンスのフレームワークで解釈する可能性について言及した.さらに,実証研究の方法論についても展望を述べ,来年度以降の実証研究の方向性を示した.
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