2011 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
22530393
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Research Institution | Saitama University |
Principal Investigator |
金子 秀 埼玉大学, 経済学部, 教授 (20204555)
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Keywords | バイオテクノロジー / 技術移転機関 |
Research Abstract |
本年度は、医薬品産業を基礎づけているバイオテクノロジーの事業化について研究した。バィオテクノロジーは遺伝学、免疫学、分子生物学、細胞生物学、構造生物学の原理を適用した技術であり、未だ十分な研究がなされておらず、その成果を期待することが難しい技術である。一方、バイオテクノロジー産業.(医薬品産業を含む)は、専門化した知識が重要なインプットの産業であることから、バイオテクノロジーに関する知識を事業化するには次のような課題があることがわかった。 第1に、科学者はセレンディピティ(serendipity:思わぬものを偶然に発見する能力)、自己組織化(self-organizing)、自己言及(self-reference)を重視している。このことは、彼らの知識を事業化するに際して、技術移転機関(technology-transfer offices)が関与すると、この機関が科学者のニーズを十分に理解できず、利益志向で動くことになり、科学者との間にコンフリクトを発生させる。 第2に、バイオテクノロジーの発生をみると、バイオテクノロジーは遺伝学と医学研究のような科学における軌道を変更して生み出されたことから、科学者の研究の軌道についても研究しなければならない。 第3に、バイオテクノロジー知識の事業化は、サイエンスやテクノロジープッシュがイノベーションの主要な推進力(driver)となっている。しかも、テクノロジー志向であるために未だ市場が存在しない。したがって、そのような状況で生み出された知識については、産業界からすれば、事業化できるという確証を得ることが必要であり、その確証が得られれば、次のプロセスに移行することができる。その意味で、バイオテクノロジーに関する知識は、徹底的な探索と学習プロセス(probe-and-learn process)が求められることから、産業界としてもどのようにして徹底的な探索を行うのかが課題となる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
バイオテクノロジー分野はIT分野と比べて未だ未解明な領域が横たわっている。バイオテクノロジー分野の研究者にはセレンディピティが重視されており、科学者にとっては、バイオテクノロジーの知識の事業化とは違和感があるように思われる。一方、産業界からすれば、バイオテクノロジー分野の知識の事業化が経済成長の推進力になるという考えがある。このように相反する両者の論理をどのような指標(数値)で捉えることができるのか、未だ方向性が定まっていない。
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Strategy for Future Research Activity |
経済の活性化のためにバイオテクノロジー分野の知識の事業化だけに重点を置いた政策を推進していくと、知識の源泉としての大学が衰退することになる。まず、大学の研究者の発見・発明を向上させるための仕組みが求あられる。また、大学の知識の事業化に対して研究者がどのように理解しているのかの解明も求められる。しかし、科学が複合化・システム化している今日、大学の知識を事業化しないと経済は衰退することになる。まさに、大学と産業界の相反する両者をどのような論理で統一化するのかが今後の課題である。
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