2012 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
22530521
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
佐藤 春吉 立命館大学, 産業社会学部, 教授 (70247807)
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Project Period (FY) |
2010-10-20 – 2014-03-31
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Keywords | 多元主義的存在論 / 実在論 / 存在論 / 多元主義 / 批判的社会理論 / 批判的実在論 / K.マルクス / M.ヴェ-バー |
Research Abstract |
今年度は、主に二つの課題について研究を前進させた。一つは、ヴェーバーの理念型論を多元主義的存在論の観点から読み解き、新たな理論展開の可能性を解明することである。二つ目は、批判的実在論の批判的検討によって、その成果を摂取し、その問題点を克服することによって多元主義的存在論の精緻化と豊富化をはかることである。 今年度は、懸案となっていたM.ヴェーバーの理念型論を実在論的に読み解く作業を成果に結びつけることができた。草稿が結果的に大部となったため、これを3分割し、順次『産業社会論集』に掲載することとした。今年度は、その最初の部分である「その1」を「M.ヴェーバーの文化科学と価値関係論」(上)、(下)として、同誌の12月号と3月号に掲載した。引き続き「その2」、「その3」を順次掲載していく予定である。この過程で新たな重要論点が明確になり、その論文化への見込みも得ている。 批判的実在論に関する研究については、本年度前期に、本学の制度による学外研究の機会を得、4月から3ヶ月間イギリスのロンドン大学IOEにおいて、この学派の創設者であるバスカー氏をのもとで、そのセミナーに参加し、同氏との意見交換や同学派の最近の議論状況を調査研究してきた。また、この学派の一員でスイスのローザンヌ連合工科大学で社会存在論研究センターを立ち上げたM.アーチャー氏とも再会し面談した。研究の成果としては、論文「批判的実在論(Critical Realism)と存在論的社会科学の可能性」を執筆した。上記論文は、批判的実在論の基本的な特徴を論じたものである。また、批判的実在論に関心を持つ同僚とともに学内に批判的実在論研究会を立ち上げ集団的な研究も開始した。この間の研究で批判的実在論と多元主義的存在論との異同の諸論点ならびにその理論的意味が次第に明瞭になりつつある。引き続き研究を深め、さらに明確化にして行きたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度の研究は、実質的に著しい前進をみたといえる。ヴェーバー研究が確実に成果を結んでおり、最終的にはかなり大部の論証的研究に結実できる見通しがついた。今年度は、すでに完成している一次原稿をもとに、分割再編成し、「M.ヴェーバーの文化科学と価値関係論-M.ヴェーバーの科学論の構図と理念型論-多元主義的存在論の視点からの再解釈の試み-(その1)」上下として掲載したが、今後副題を同じにする「その2」「M.ヴェーバーの現実科学と因果性論」、「その3」「M.ヴェ-バーの理念型論とその実在論的意味」を順次連載形式で公表していくことにしている。現在、因果性論の「その2」は、新たな知見を加え旧稿のバージョンアップのための改訂作業中である。また、これらの研究過程で、これまでのヴェ-バー研究でほとんど全く注目されてこなかったその実在論的思考を証示する新しい論点を見いだしており、これについて内容的には論文化のめどができてきている。これらの作業を順次進める予定である。 批判的実在論研究では、その思想や理論の特質がほぼ明らかになり、私の構想する多元主義的存在論との相違とその意味も直感的レベルを脱して次第に明瞭になりつつある。学内に批判的実在論研究会が組織され、共同研究や討論の場ができたことは研究推進にとって刺激となっている。 上記、二つの課題ともにその研究は実質的には大きく前進しているが、成果物として公表するには一つ一つ確実に進めるために時間がかかっており、その点からみると当初計画より遅れているとも言える。また、ハルトマンやポパーの理論研究を整理し、多元主義的存在論の全体構造をあきらかにするという大きな構想からすれば、まだ、道は遠いとも言える。しかし、ともかくも、研究は一歩一歩着実に前進し、内容的には当初の想定以上の理論的な深化がみられてきている。
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Strategy for Future Research Activity |
ヴェーバー研究は、内容的には当初の目論見からみてほぼ完成に近づいている。その研究の大部分は、すでに粗原稿段階では完成しているが、すでに発表した「その1」論文に引き続き、「その2」、「その3」論文をさらに精緻化させながら順次仕上げ『産業社会論集』に連載していく見通しが立っている。研究途上でヴェ-バーの実在論を証示する論点についての新たな発見もあり、今後は、それら新たな論点も含めて、研究執筆作業を確実に遂行し、連載を完成させることを第一の課題とする。時間的制約もあるが、ヴェーバーの研究が一段落したら、N.ハルトマンの本格的な研究にも進みたい。 批判的実在論の研究では、発足した学内の批判的実在論研究会で共同研究を進めながら、その批判的検討を引き続き進める。また現在、この学派から出されている研究入門書"Explaining Society"を翻訳する計画を抱いていたが、出版社も決まり、具体化してきている。私自身の研究を進めつつ、この学派の主張を紹介することで、この国ではほとんどその意義が理解されていない実在論にもとづく「社会存在論」が新しい批判的社会理論の開拓の鍵になることを社会的にもアピールして、その研究の意義について理解を広げる仕事もしていきたい。批判的実在論研究によって、その意味や射程についてさらに理解を深め、学び取るとともに、批判的対質を行い、私の多元主義的存在論をよりクリアエッジなものにしていきたい。今年度も、批判的実在論に関連する論文を執筆することを目標としたい。また、この間の研究過程で、批判的実在論以外にも、非常に興味深い優れた社会存在論的研究があることを知った。これらについてもサーベイをし、多元主義的存在論の構想をさらに豊かにし、その土台を強固なものにして行く作業を継続していきたい。本課題では、研究過程でさまざまな発見があり、テーマの進展を実感している。
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Research Products
(4 results)