2010 Fiscal Year Annual Research Report
離婚母子世帯の子どもの扶養をめぐる福祉国家と家族の関係に関する日英比較研究
Project/Area Number |
22530525
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
下夷 美幸 東北大学, 大学院・文学研究科, 准教授 (50277894)
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Keywords | 離婚 / 母子世帯 / 養育費 / 扶養 / 家族政策 |
Research Abstract |
1.養育費相談支援センターに対する調査、ならびに、英国の養育費政策に関する政府や議会資料の検討を通して、1990年代以降の日本と英国の養育費問題に対する政策対応の相違が明らかになった。すなわち、日本では「政府は家族問題に介入しない」という不介入原則が堅持され、政府は養育費問題に距離をおいている。それに対し、英国政府は、かつては日本と同様に、養育費問題への不介入を貫いていたが、家族と福祉国家の双方の変化を背景に、1990年代初めに養育費制度を導入し、以後、それを家族政策のひとつに位置づけ、養育費問題に強く関与し続けている。この20年、日本の政策が停滞している間に、英国は家族介入的政策へと著しく変貌し、両国の現在の養育費政策は対照的なものとなっている。 2.日本が今後の養育費政策を構想するにあたっては、英国の過去20年における政策の「失敗」の歴史が重要な参照事例であることが明らかとなった。現在、日本でも、離別母子世帯の当事者や支援者、研究者等から、行政による養育費の確保制度の導入が求められているが、それはまさに英国が導入、推進してきた制度である。しかし、英国の制度は導入直後から失敗と評され、その後の制度改正によっても改善がみられず、現在、抜本的な改革案が提示されている状況である。英国の失敗の原因は、行政が一律に直接的に介入し、強制的に対処しようとしたことにあるといえ、このことは、離別した親から子への養育費の支払いという、複雑な家族問題に対する介入的政策の難しさを示している。養育費問題の解決に、家族介入的政策は不可欠だが、同時に、家族の自律的な問題解決を支援する政策も必要である。今後の日本の政策構想と具体的な制度設計においては、後発の利点を活かし、英国が経験した養育費制度の「失敗」の歴史から学ぶことが重要である。
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