2011 Fiscal Year Annual Research Report
離婚母子世帯の子どもの扶養をめぐる福祉国家と家族の関係に関する日英比較研究
Project/Area Number |
22530525
|
Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
下夷 美幸 東北大学, 大学院・文学研究科, 准教授 (50277894)
|
Keywords | 離婚 / 母子世帯 / 養育費 / 扶養 / 家族政策 |
Research Abstract |
英国における2000年代後半以降の養育費政策に関する政府や議会資料の検討を行った。とくに、2010年の政権交代により誕生した保守合同政権が、翌年に提示した養育費制度の改革案は前政権の改革の方向を継承しつつも、家族の責任をいっそう強調するもので、英国の養育費政策の政策転嫁ともいえる注目すべき動きであった。改革案の内容は、両親の合意による自主的解決を基本とし、養育費制度の利用者を限定するものである。改革案では、こうして、あくまで両親の合意が目指されるが、それでも合意に至らない場合には、養育費制度を利用することができることとなっている。ただし、制度を利用するには、申請時に利用料が課され、養育費の査定や徴収も有料サービスとして提供される。このように、現在、英国の政府は、家族による自主的解決を推進する方向に政策の力点を移し、養育費問題への直接的な政策関与を限りなく縮小しようとしている。 つまり、英国では、1990年代に導入した養育費制度が失敗し、家族への介入がうまく機能しないことから、問題解決を家族にゆだね、家族への介入は極力控えようとしているのである。これは、養育費制度の導入によって、いうたん社会化した養育費問題を「再私事化」する動きであり、家族への「不介入を志向」するアプローチといえる。そこには、親責任にもとづく包括的な問題解決が期待されるというプラス面もあるが、他方、両者の力関係を反映した合意で着するおそれや、制度の利用が抑制され、事実上、養育費問題の解決の道が断たれる危険もある。 日本においては、2011年5月の民法改正により、離婚の際に養育費を定めるべきことが明記され、養育費制度の必要性が高まってきた。日本と類似の状況で制度を導入し、近時、政策転換をはかる英国を事例として、離婚後の子どもの扶養をめぐる家族と国家の関係を検討することの意義は大きい。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
英国では、2010年の政権交代後、養育費政策が重要な政策イシューとして取り上げられ、制度改革の具体案が展開されるなど、当初の予想を超えるスピードで政策が急展開している。他方、日本においても、2011年の民法改正案審議の大詰め段階で、急遽、養育費が議論に加えられ、最終的に、養育費に関する民法規定が実現した。こうした英国と日本の政策展開は、それぞれの国の特徴を際立たせるものであった。このことが、両国の比較において、離婚後の子どもの扶養をめぐる家族と国家の関係をとらえようとする本研究の推進力となり、当初の計画以上に研究を進展させることができた。
|
Strategy for Future Research Activity |
研究課題を達成するために、今後さらに英国の政策展開とその議論を詳細に検討していく。具体的には、政策の基底にある家族イデオロギー、児童家族政策全体における養育費政策の位置づけの変容、養育費制度の政府改革案に対する各種の主張とその立場性の検討をすすめることで、英国における離別後の子どもの扶養をめぐる福祉国家と家族の関係の特徴を抽出していく。また、日本については、養育費政策の基盤となる、離婚後の子どもの扶養に関する規範について、歴史的・理論的検討を行い、その日本的特徴を明確にしていく。そして、日本と英国の養育費をめぐる政策の歴史と現状、ならびに政策の基底にある家族規範の比較を行い、離婚後の子どもの扶養をめぐる福祉国家と家族の関係のあり方についての結論を見出していく。その研究成果をもとに、社会的要請の高まっている、日本の養育費制度の導入に向けて、政策提言を行う。
|