2011 Fiscal Year Annual Research Report
昭和戦前期以降の日本社会における金銭観と金銭作法に関する社会学的研究
Project/Area Number |
22530543
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Research Institution | Nagoya Institute of Technology |
Principal Investigator |
永谷 健 名古屋工業大学, 工学研究科, 准教授 (50273305)
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Keywords | 金銭観 / 金銭作法 / 社会学 / 戦前戦後 / 経済エリート |
Research Abstract |
今年度は、大正期から戦中・戦後の時代において、諸メディアによって金銭がいかに表象されたのか、また、メディアの表象プロセスのなかで、金銭の扱いや金銭に対する態度の正説となった観念・認識とはどのようなものかを、金銭の専門家と見なされてきた経済エリートをめぐる状況の変化に焦点を当てながら検討してきた。具体的には次の2点である。 1.経済エリート自身による論説や彼らに関する論評を頻繁に掲載していたいくつかの雑誌(『実業之日本』『中央公論』などの経済雑誌や総合雑誌)について検討した。とくに、経済エリートの社会階層としての存在意義に関する論調の変化、彼ら自身の論説の掲載頻度と言説内容の変化などを追った。その結果、大正前期までの諸記事は、経済エリートを称賛するものから揶揄するものまで多様であるが、大正中期を転換点として、彼らへの攻撃的な言説が増加し、それと並行して社会が富裕層・中流俸給生活者・労働者階級という3つの階級(あるいは階層)として捉える傾向が強まった点が確認された。 2.大正後期以降、多くの事業所に浸透した青年団活動(とくに修養団運動)について検討した。その結果、『実業之日本』などで再三推奨されてきた財界人の「奮闘主義」言説が、青年団運動の精神的支柱へと部分的に受け継がれた可能性があることが確認できた。この運動は労使一体化を促すことで労働争議を抑止する一面があり、多くの経済エリートたちがこの運動と積極的に連携した。昭和初期に経済エリートへの批判的思潮が一層高まるなか、雑誌メディアが遺した「奮闘主義」の遺産は、彼らと労働者を新たな親和的関係へと密かに導いたと推測される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究自体は順調に進展している。しかし、当初予定していた戦後における諸メディアに関する分析は、かなりの進展が見られるとは言えない。戦前期に関する研究は、資料収集の点でも検討・考察の点でも、作業量が無限であるという点が理由として考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
戦前研究については、24年度に研究内容を公表する予定である。そうした公表に関する作業と並行して、戦後に関する研究に集中するつもりである。そのためには、戦前研究の公表作業を早めに終了して対応したい。
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Research Products
(2 results)