2010 Fiscal Year Annual Research Report
ポスト・コンフリクト国における難民の帰還と社会統合の方途
Project/Area Number |
22530549
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
材木 和雄 広島大学, 大学院・総合科学研究科, 准教授 (70215929)
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Keywords | セルビア系難民 / ユーゴスラヴィア紛争 / 難民問題 |
Research Abstract |
本年度はセルビア共和国を対象に難民の帰還と社会統合の進行状況を検討した。その結果、次のような知見を得た。 (1)セルビアの難民については帰還と統合の間に明確な線引きをすることは難しい。セルビアに定住を決めた人びとの中には出身地に定期的に戻っている人びとがかなりいる。また一つの家族の中で帰還と統合を使い分けているケースもある。たとえば、親世代は帰国し元の居住地で生活しているが、子どもの世代はセルビアに定住しているパターンがそれである。セルビアは二重国籍を認めているので、難民にとっては帰還と統合を柔軟に組み合わせた生活設計が容易になっている。 (2)現地社会への統合に成功した状態を、国籍の取得と市民権の実現、標準的な住宅の取得、安定した収入源となる仕事をもつことの3つの側面から考えた場合、これらをまだ達成していない人びとは多い。セルビアに定住した難民のうち、セルビア国籍と個人カードを取得し、完全に市民権を獲得した者は半分以下と見られ、住宅については間借りの部屋に住んでいる人もかなりいる。また難民・国内避難民の失業率は一般人口に比べてかなり高い。難民の中にはセルビア社会への統合にあまり期待していない者もかなり存在するように思われる。 (3)就労問題は難民にとって最大の問題であるが、難民・国内避難民の間で失業率が高いことは彼らに対する差別や排除の結果ではない。少なくともそのように見る者はこの国ではほとんどいない。彼らの就業状況を悪くしている最大の原因はセルビアの経済発展が遅れていることにある。 (4)難民が抱える就労と貧困の問題は難民に特有の問題ではなく、一般のセルビア国民が抱える問題でもある。だから、難民・国内避難民だけをターゲットにした対策をとることは妥当ではない。一般のセルビア国民の間での失業や貧困の問題を緩和するような対策が求められる。
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Research Products
(2 results)