2011 Fiscal Year Annual Research Report
環境変化へのレジリエンスと記憶に関する社会学的研究
Project/Area Number |
22530575
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Research Institution | Tokyo City University |
Principal Investigator |
大塚 善樹 東京都市大学, 環境情報学部, 教授 (10320011)
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Keywords | 社会学 / 環境変化 / 自然災害 |
Research Abstract |
今年度はとくに,1771年の宮古八重山地震・津波(明和大津波)の前後約100年の範囲における八重山群島の社会変化について,引き続き史料に基づく文献調査を行った。その結果,明和大津波後,100年以上にわたって人口をはじめとする社会的機能が回復していないことから,この事例は低レジリエンスとして把握可能であった。この低レジリエンスには,津波災害だけではなく,マラリアと地域社会との関係が重要であることがわかった。 一方で,津波の記憶は共同体に関する様々な語りとして保持されてきたことが古謡や伝説からうかがえたが,そこで亀やジュゴンといった動物が,超越的な自然災害と日常生活とを媒介する役割を果たしていることが示唆された。それらの記憶は,災害から生き残った共同体,あるいは新たにつくられた共同体の成り立ちを正当化し,災害からの復興を促進する機能を持つことが考えられた。ただし,そのような記憶が共同体と自然との関係,あるいは災害の軽減にどのような意味を持つかは不明である。 また,欧米の研究では,社会的レジリエンスの概念が,より直接的に環境変化の影響を受けるコミュニティ・レベルへと焦点を移し,「コミュニティ・レジリエンス」という概念が一般化してきたことから,ヨーロッパのLEDDRA(Land and Ecosystem Degradation and Desertification:Response Assemblages)プロジェクトや米国のCARRI(Community and Regional Resilience Institute)の活動を中心に文献研究を行い,社会的レジリエンスの空間的・時間的スケールに関する理論的な再検討を行った。レジリエンスの概念を用いるにあたって,コミュニティや共同体など,社会学的には問題を孕んだ概念と接合する際に考えられる諸問題について予備的な検討を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究の中心的な概念である「レジリエンス」は,関連する学会での概念規定や用いられ方が未だに定まっていない。そのために,具体的な事例調査と同時に概念の再検討を行わなければならず,とくに最近になって欧米で用いられはじめた「コミュニティ・レジリエンス」について検討を行う必要があったため。また,レジリエンスと社会的記憶に関する論考としてまとめた八重山のジュゴンに関する研究は,本の1章として出版予定であったが,編集の都合で刊行が遅れているため。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は,明和大津波以後の低レジリエンスに大きな影響を与えたと考えられる,八重山地域のマラリアについての歴史的研究を中心に行う。そのためには,疫学的および生態学的な研究動向についても文献調査を行う必要がある。これらは,当初考えていた当該地域の自然-社会関係であった農漁業とはやや離れるが,マラリア媒介蚊の生息域の拡大は水田開発と密接に結びついていることから,その重要な一部ではあると思われる。今年度が最終年度であることから,それらの研究成果を含めて,これまでの成果を自然と社会との共進化の視点を加えた環境史としてまとめることを目標とする。
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Research Products
(2 results)