2011 Fiscal Year Annual Research Report
80年代の出版・活字文化生産過程に関する実証的研究
Project/Area Number |
22530580
|
Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
伊藤 守 早稲田大学, 教育・総合科学学術院, 教授 (30232474)
|
Keywords | 出版 / 活字文化 / 1980年代文化 / ニューアカ / 文化資本 |
Research Abstract |
2010年度は、80年代の出版界の変化を探るために、岩波書店、勁草書房、せりか書房という学術出版分野における伝統的な出版社から80年代をリードした出版社の編集者に関する聞き取り調査を行ったが、11年度も同様に、現在は以文社の社長を務め、長く河出書房新社の「文藝」の編集長も務めた編集者、さらに長く書評週刊紙「読書人」の編集長を務めた方々からの聞き取り調査を実施した。この聞き取りから浮かび上がるのは、第一に、それまで全集刊行という形態が出版事情に合わなくなり、出版社としては刊行点数を増やす「縮小生産」に移行していく時期であったこと、第二に、それだけに編集者が「自前の場」「自前の人脈」を形成しながら「自己満足」でき、「自分が好きなもの」を制作する余地がある意味で拡大したこと、第三に、「自前の人脈」を形成するに際して、文学、歴史学、哲学、宗教学といったディシプリンを超えた研究者のネットワークの結節点としての役割を編集者が意識的に担っていたという点である。 以上の聞き取り調査からの知見をふまえて、後半は、先行研究として代表的な「本を生み出す力」を手がかりに、80年代の出版状況の変容をどう把握できるかについて理論的な検討を試みた。焦点は、全集本、高価な学術書、知的権威であったマルクス主義関連や近代化理論関連の本が衰退する市場と読者の関心の変化、編集者自身の意識の変化などのなかで、「出版書店」のブランド化、「書き手」のブランド化の生起、学術本のジャンル化(教科書、学術書、教養書、学術上のベストセラーなど)の進展といった変化である。それは<学術>から<商業>への重心の移行ともとれるが、実際には編集者の裁量、編集者として「個人に任される」部分の拡大でもあったのではないか、との仮説を立てている。次年度はこの点も含め、聞き取り調査を進め、検討を行うことにしている。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
編集者の協力もあり、聞き取り調査は順調に実施できている。次年度は、最終年度でもあり、関連文献の批判的検証を行いつつ、本研究からなんらかの新しい知見を提示できる見通しである。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後は、出版、出版文化の研究者を招いて、80年代の出版にかかわる研究の視点や共有されている知見をお聞きし、メディア文化研究以外の研究動向を把握して、より一層精緻な研究を推進していくこととする。
|