2011 Fiscal Year Annual Research Report
歴史社会学の可能性の再検討:自殺の系譜学的探求に準拠して
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22530581
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Research Institution | Yamagata University |
Principal Investigator |
貞包 英之 山形大学, 基盤教育院, 准教授 (20509666)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
野上 元 筑波大学, 人文社会系, 准教授 (50350187)
元森 絵里子 明治学院大学, 社会学部, 准教授 (60549137)
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Keywords | 歴史社会学 / 死の社会学 / 自殺論 / 自殺対策 / 過労自殺 / 生命保険 |
Research Abstract |
研究二年度目にあたる本年は、自殺の歴史社会学に関する先行論文の検討と各自の研究の達成を検討する研究会を計四回開催し自殺を歴史社会学的に検討することの可能性と問題が分析された。 とくに議論されたのは近現代の自殺を歴史社会学的に検討する可能性である。近現代の自殺は同時代的な社会構造から分析されることが多いが、自殺を招くとともに自殺を問題化する社会の歴史的構造についても分析する必要がある。その観点から第一に過労自殺の認定をめぐる歴史が検討された。近代社会は自殺を意志的な死として問題化してきたが、過労自殺ではむしろこの意志が封殺され就業者が死に追いやられることが問題となる。その意味で過労自殺の認定には制度的・社会通念的な抵抗がしばしばみられるのであり、その過労自殺の問題化の歴史をあきらかにすることで現代社会における自殺の意味が捉えかえすことが目指された。 第二に議論されたのが生命保険にかかわる自殺である。一九七〇年代以降生命保険にかかわる自殺が急増しそれが現代社会の自殺に大きな影響を与えている。この意味で現代の自殺の急増も戦後社会の抱える問題と無関係ではなく、そうした歴史的な条件が現在の自殺の増加にあたえている影響について確認された。 第三に現代の自殺を捉える枠組みとしての自殺対策基本法の成立過程の分析が実行された。近年、自殺の増加に伴い、自殺が政治的資源として政治家や官僚、医師や社会活動家たちの注目を集めている。その達成としての自殺対策基本法に集約される社会的な取り組みの歴史が分析されることで自殺を社会問題化する社会の構造が分析された。 以上のように本年度はとくに現代における自殺を起点としてその歴史的奥行きを多方面から捉えることが実現された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
自殺にかかわる歴史社会学の先行研究の検討、インタビュー調査を含めた現在を起点とした自殺の歴史社会学的分析を本研究は着実に進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は現在、過労自殺や生命保険における自殺の分析、自殺に関わる政策成立過程を分析することにおいて着実な成果がみられる。今後それを論文化、または発表することで発展させるとともに、他の研究者からの批判をあおぎつつ戦前や近世まで視野に含めた自殺の分析を進めることが目指される。
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