2011 Fiscal Year Annual Research Report
最低所得保障と住宅権保障を中心とするフランス社会的包摂政策とローカル・ガバナンス
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22530618
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Research Institution | Higashi Nippon International University |
Principal Investigator |
原田 康美 東日本国際大学, 福祉環境学部, 教授 (00406000)
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Keywords | 社会的包摂政策 / フランス / 現金給付 / 付帯権 / 寄り添い支援 / 対抗権付き住宅権 / 個別的就労支援 / 雇用センター |
Research Abstract |
フランスの社会的包摂政策では、(1)最低限の現金給付RSA、(2)「付帯権」としての現物給付(社会扶助の諸特典、普遍的医療制度への加入、保育所利用特典、居住税免除、交通費割引、TV視聴料免除等)、(3)社会的・職業的寄り添い支援という個別的な対人サービスが三位一体的に連携しており、さらに、(4)住宅困窮者の住宅確保を実効的に実現するための「対抗権付き住宅権」が制定されている。問題は、社会的包摂政策のツールとしてのこれらの諸制度の運用実態とその評価はどうであるか、である。 例えば、寄り添い型就労支援事業として注目される日本のパーソナルサポート事業との関連でいえば、フランスのRSA受給者の社会的・職業的寄り添い支援では、稼働能力に問題がない場合、受給者は「雇用センター」(Pole emploi)において特定め支援担当者の寄り添い型就労支援を受けることになっている。しかし、その実態は個別的な寄り添い支援にほど遠い。「雇用センター」は失業給付・失業扶助業務を主務とする組織と就労支援を主務とする組織とを統合して2008年末に創設された新組織であるが、その職員は2つの旧組織の双方の業務に通じていることが求められ、個別的な就労支援に十分な時間を割くことができないでいる。また、失業者の増大により求職者が著しく増加しているが、職員数の増加がないこともあって、特定の支援担当者による個別的な寄り添い型の就労支援はほとんど行われていないのが実態である。さらに、「雇用センター」による求職者の短期の臨時雇用が広がり、公的部門の「雇用センター」が不安定雇用を創出するという状況もある。 ブランスの社会的包摂政策は、特定の社会カテゴリー(短期失業、有資格者、20~30歳代、男性)には一定の効果があるが、その他の社会カテゴリー(長期失業、無資格・低学歴、中高年、女性)には十分な効果が上がっていない。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
「やや遅れている」部分は、フランスの社会的包摂政策のうちの「提訴権付き住宅権」(DALO)の運用実態およびローカル・ガバナンス(RSA受給者に対する就労支援、住宅困窮者に対する住宅政策の実施体制における地方自治体の位置と役割)に関する部分である。この部分が「やや遅れている」主な理由は、第1に、勤務校が東日本大震災・原発事故の被災地に所在しているため、平成23年度の研究体制に混乱をきたしたこと(特に学年歴の大幅変更で夏季休暇がほとんどなくなったことが大きい)、第2に、同じく被災地に所在する大学学部と.して被災調査研究に携わる必要が生じたことなどによる。その結果、夏季休暇中の現地調査が2~3月にずれ込んでしまった。
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Strategy for Future Research Activity |
上記のように研究が「やや遅れている」が、「提訴権付き住宅権」(DALO)に関しては、平成23年11月に公表された複数の報告書を入手できているため、それらの解読・解析作業に注力する予定である。幸い、勤務校の状況も幾分落ちついてきているので、今年度やより多くの研究時間を確保できる見込みである。 一方、ローカル・ガバナンスに関しては、フランス国内でも研究業績が十分存往していないため、現在のところ、社会的包摂政策の実施体制に関する先行研究の掘り出しとその解読三解析を中心に研究を遂行することにする。とくに、地方分権化と社会的包摂政策に求められる政策横断性との連関について、フランスではいかに認識され、いかなる対応を採ろうとしているのか、という点に焦点を当てていきたい。
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