Research Abstract |
本研究の目的は,幼児期(年中・年長)の子どもを対象に,子ども同士がともに教え合い・学び合うpeer tutoring課題を設定し,認知・情動・対人関係的問題を自らの力で考えて解決できるようになる自己(自律的自己)を育てるための就学前教育プログラムを開発することである。このうち,平成23年度は以下の下位目標を設定した。(1)自律性の発達尺度として,課題に特化した尺度から一般性の高い尺度へと洗練させる。(2)個別の尺度構成のために使用した実験の課題構造を活かし,個別条件から協働条件へ適用可能なものへ組み換える。(3)peer tutoring用の課題を領域別に試作する。(4)自律的自己を育む就学前教育プログラムを作成・試行する。その結果,(1)については,年中児を加え,年長児と2年齢を対象に検証し,6領域について発達的な変化が認められた。一般的尺度については,幼児用の行動評価尺度(CBQ : Rothbart et al.2001)等を参考に,家庭や保育場面でも適用できる質問紙の形式に整える作業を進めている。(2)については,まず,年長児の約1ヶ月にわたる保育場面の観察プロトコルを分析し,課題目標との関係において,保育士のかかわり方の多様さや,支援的・指導的特徴が明らかにされた。(3)については,peer tutoringと心の理論(a他者の誤信念理解,b他者の知識変化の理解)との関係が実験的に検討され,peertutoringには,心の理論(a)が深く関与し,(b)は関連性が弱かった。(4)については,(2)と(3)より,自-他の理解の程度やずれの把握,そのための交渉スキル(何を問うか何を確認するか),教授者としての振る舞い(認知・情動の自律)などが要因として導き出され,それらを踏まえたプログラムを試作途中である。また,上記一連の結果は,現在,分析段階にあり,論文化は次年度の予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
量的な進展具合から見れば,論文化の作業が遅れている。その原因としては,(1)自律性をはかる尺度については,実験課題を認知・情動・対人関係の3領域にわたり,一人あたり合計11課題実施し,しかもすべてwithin計画で実施している。一人ひとり,個別実験にて,すべてのデータを取り揃える為に相当な時間を要している。(2)また,子どもの自律性や自発性を捉える為には,実験的方法のみでは不十分であり,今年度の計画を途中で修正し,約1ヶ月にわたる観察研究を取り入れた。それにより,子どもたちと保育士のプロトコルの転記・分析作業に2ヶ月以上時間が取られることとなった。しかしながら,(1)と(2)は,研究の質を高めるうえでは相当な貢献をしており,質的な進展具合から捉え直せば,当初の計画以上の収穫をあげている。来年度の研究計画の実施に向けてその確実さを保証するものである。
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Strategy for Future Research Activity |
1.H23年度に実施した,認知・情動・対人関係に関する幼児の自律性を測定するために実施した実験課題のうち,8課題について分析結果をまとめたものを今年5月末6月初めにカナダ(トロント)で開催されるJean Piaget Society 42^<nd> Annual Meetingで発表し,その後,論文化する予定である。 2.次年度は最終年度となるため,以下の3つに焦点を当てて一連の研究をまとめるものである。 (1)自律的自己の発達尺度の妥当性の検証(特に家庭や保育場面で実施できる幼児用行動評価尺度について) (2)実験場面と保育場面の相互交流的peertutoring課題の実施と効果測定(特に相互交渉スキルの獲得をめざして) (3)就学後を見据えた就学前保育プログラムの開発(小学1年生の協働学習事例との比較を通して)
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