Research Abstract |
本研究の目的は,トラウマに関する認知的再体制化が促進するよう構造化された(構造化)筆記開示が心身健康・高次認知機能に及ぼす影響を検討することであった。外傷後ストレス反応を測定する尺度において中程度以上の得点を示す大学学部生(26名)が実験参加者であった。実験参加者は,1日20分間,合計3日間,筆記開示を行った。構造化開示群(10名)は,セッション1では,自身のトラウマの中で,最も苦痛を感じる場面について,現在進行形で開示し,その時に浮かんだ否定的思考を筆記した。セッション2では,類似した状況に居る友人に対する助言を筆記した。セッション3では,再度,セッション1同様に,苦痛を感じる場面,その時に浮かんだ否定的思考を筆記した。自由開示群(6名)は,従来から行われているように,自由に,トラウマに関する感情や思考を筆記した。統制群(10名)は,実験後の予定について,感情を交えずに筆記した。 実験の結果,全群で外傷後ストレス反応について実験前から実験2週間後,1ケ月後,3ケ月後にかけて,得点の低減が有意に示された。その効果量について,構造化開示群が他群よりも高い値を示し,その効用が示唆された。トラウマに関する否定的思考から距離を置く、(脱中心化)スキル,高次認知機能の指標の1つであるワーキング・メモリ,ストレスホルモンであるコルチゾール・レベルについては,効果は示されなかった。 このように,構造化開示の効用が,一定レベルにおいて示唆された点において本研究は意義深いが,先行研究のそれと比べると低い値であり,本研究で用いられた現在進行形による開示の効果については疑問が残される。今後,より効果的な手続きの開発が必要である。 本研究の成果は日本行動療法学会で報告された。また,次年度以降,高次認知機能について,脳血流量の観点から測定するために,頭部近赤外光計測装置を購入した。
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