Research Abstract |
平成22年度研究においては,主として,個人の表情識別能力を測定する検査課題の標準化作業と,表情識別過程に関する基礎的・実験的検討を行った。その結果,一般に知られる6種の基本表情(喜び,悲しみ,驚き,怒り,嫌悪,恐怖)では,その識別容易性が異なり,喜び表情はもっとも識別が容易であるのに対して,嫌悪や恐怖は識別が困難であることがわかった。嫌悪や恐怖の認識が難しいことは従来から知られていたが,本研究では,任意のパーセンテージで表出された表情刺激に対する識別能力を,表情・情動を表す言語ラベルとマッチングする課題(意味的分類課題)と,100%で表出された表情画像とマッチングする課題(知覚的照合課題)の2つの課題を用いて検討したところ,嫌悪や恐怖は,知覚的には表情パターンを読み取っているものの,意味的に情動を理解する際に間違いやすいことがわかった。また,同様の課題を表情認識能力が劣るといわれる高齢者に行ったところ,加齢に伴う表情認識の困難の原因は,表情から意味を理解する過程よりも初期段階の,パターンとして表情を知覚する過程にあることがわかった。これまでの研究の結果,筆者らが開発した表情識別能力を測定する検査課題は,表情に対する個人の感受性を調べるのに有効であることが確かめられた。また,表情識別能力が劣るといわれる高齢者を用いた研究において,その老化の原因が初期の知覚的水準にあることがわかったことから,今後は,視線行動を手がかりに表情識別能力の個人差について検討する予定である。
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