2011 Fiscal Year Annual Research Report
近代北海道における小学校と地域社会-「開拓」と教育「普及」の相剋に着目して-
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22530808
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Research Institution | Hokkaido University of Education |
Principal Investigator |
坂本 紀子 北海道教育大学, 教育学部, 教授 (40374748)
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Keywords | 近代 / 北海道 / 地域 / 教育史 / 学校史 / 教育制度 |
Research Abstract |
本年度は,前年度にまとめた近代北海道の小学簡易科についての論考を,学会紀要に掲載することができた。近代北海道における小学簡易科の実態は,これまで明らかにされていなかった。本稿によって,近代北海道の「開拓」政策下における学校教育の実態を明らかにすることができた。 また,1898年(明治31)に施行された「簡易教育規程」および1903年(明治36)年に施行された「特別教育規程」により設置された簡易教育所,特別教育所の前身であった,私立の初等教育機関に関する資料を収集しその実態をまとめ学会で発表した。「開拓」政策により20戸ないし30戸の移住民から形成される近代北海道の地域社会においては,小学校を設置するだけの財力がなく,移住民が増加し財政基盤が整うまでの間,僧侶や読み書き知識のある住民によって設置された私設の教場で子どもたちに簡単な読み書きが教授された。北海道には,そのような私設の教場が無数に存在した。全国的に小学校就学率が上昇する日清戦争後,北海道移住民数が増加し,北海道の小学校就学率は逆に停滞,下降する。北海道庁は1898年(明治32)に,地域の一私人で教員資格を有し教場施設を持つ者に小学校教育を委託することを可能にした「簡易教育規程」を公布する。それは前記の私設の教場を小学校教育として認める内容であった。「簡易教育規程」公布後,北海道の就学率は上昇する。北海道では,私設の教場を簡易教育所とすることによって尋常小学校に代わる教育機関として認め,就学率を向上させ,就学率85パーセント以上の数値を確保した。近代北海道における小学校就学率上昇には,府県とは異なった「開拓」政策下に創出された私設の教場を,簡易教育所および特別教育所という名称で公立小学校に取り込むといった政策が実施されていたという,これまでの研究成果にはなかった史実を明らかにすることができた。 なお,私立の初等教育機関に関する資料の調査収集によって,私立の小学校に関する分析考察も行い,論文「1887から1897年における北海道の私立小学校」(北海道教育大学紀要,教育科学編第63巻第1号,2012年10月発行予定)としてまとめることができた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究の目的は,近代北海道の教育令規である1895年(明治28)の「小学校教則」および「小学校修業年限指定標準」,1891年(明治31)の「簡易教育規程」,1903年(明治36)の「特別教育規程」の施行期における地域の教育実態を分析し,教育「普及」と「開拓」政策との相剋を明らかにすることである。現段階において,「小学校教則」および「小学校修業年限指定標準」下,「簡易教育規程」下の地域の教育実態を「開拓」政策との関わりから分析し,近代北海道教育の特徴を解明するに至っている。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き,簡易教育所および特別教育所の前身である私設の教場の実態を,多様な地域の資料調査および分析をとおして明らかにする。そして,それらの私設の教場が簡易教育所および特別教育所に代わってからの実情も明らかにする。特に,多様な私設の教場の実態,および簡易教育所および特別教育所で実施された教育内容,教員の存在,維持費等を中心に,さらに具体的に分析する。私設の教場,簡易教育所および特別教育所こそが,まさに「開拓」政策下における近代北海道の教育を象徴する存在だからである。そのような教育機関の実態を分析することをとおして,近代北海道の教育の特徴をさらに明らかにしていきたい。
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Research Products
(2 results)