2011 Fiscal Year Annual Research Report
近代日本における中学校・高等女学校の学校文化とジェンダー
Project/Area Number |
22530816
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
小山 静子 京都大学, 人間・環境学研究科, 教授 (40225595)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
今田 絵里香 京都大学, 文学研究科, 助教 (50536589)
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Keywords | 中学校 / 高等女学校 / 学校文化 / ジェンダー |
Research Abstract |
今年度行った研究は大きくわけて3つである。まず第一に制度史的な観点から中等教育の改革論議を検討した。1920年前後には中等教育機関への進学率が急増し、それにともなって中等教育の意味づけや性格が変化していくが、その過程でどのような中等教育改革論議が行われたのか、主に文政審議会の議論を史料として考察した。その結果、高等女学校を基準として中学校の改革の必要性が論じられるなど、男子の中学校教育が活発に議論の俎上にあがっていくこと、中学校の改善案においては中学校と高等女学校の教育課程が接近していくことなどが明らかになった。このことは、男子教育を参照軸として行われていた従来の中等教育論議が転換しつつあったことを示すものである。第二に中学校と高等女学校の教育内容を修身と生理衛生の教科書を通して比較検討した。修身教科書では男子に立志、勇気、我慢、女子に品位、貞操、母性、愛が求められていること、高等女学校の教科書には家族道徳や女性道徳が多数掲載されており、性別分業や配偶者選択の問題が論じられていくのに対して、中学校の教科書にはこれらはほとんど掲載されていないことが明らかとなった。また生理衛生教科書においては、とりわけ女子用の教科書において男女の身体の相違を本質的なものとして強調する傾向があるという知見が得られた。そして第三に学校文化という観点から中学生と高等女学生にとっての文芸の意味を考察した。具体的には、『日本少年』と『少女の友』という雑誌に見られる投書文化を検討したが、それを通して、両者はともに「現実」に根ざしたテーマと表現をもつものを「子どもらしい」とした点においては共通していたが、少年には「勇ましい」作品、少女には「美しい」作品を、それぞれ「少年らしい文芸作品」「少女らしい文芸作品」とするという相違があったことが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は男女別学体制が貫徹していた戦前の中等教育に焦点をあて、両者を比較検討する中から、ジェンダーによる教育の違いや中学生と高等女学生の文化の差異を明らかにしようとするものである。そのために、中等教育制度に関わる論議、中学校や高等女学校の教育内容に示された男女観、中学生や高等女学校生が読む雑誌からうかがえる学校文化を研究する予定にしている。今年度は、中等教育改革論議の検討や、修身教科書と生理衛生教科書の分析、少年少女雑誌の比較検討を行った。これらは研究目的の遂行にとって必要不可欠なものであり、そういう意味で、本研究は順調に進展していると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究には大きく3つの課題、つまり、中学校と高等女学校の制度的研究、中学校や高等女学校の教育内容の比較分析、中学生と高等女学生の学校文化の比較検討、という課題が存在している。第一の点に関しては、かなり研究が進んでいるが、第二の点に関しては、音楽教育やスポーツに関する分析がまだできていないので、今後この領域の研究を重点的に進めていく予定である。また第三の点についていえば、中学生や高等女学生が読む少年雑誌と少女雑誌の比較しながら、文芸に関する領域についてはかなり研究を進めることができたが、友情という同性同士の関係性のありようの解明に関しては未だ研究が不十分である。これらのことを今後の研究課題として、研究を進めていくことにしたい。
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