2012 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
22530823
|
Research Institution | Aichi Prefectural University |
Principal Investigator |
伊藤 稔明 愛知県立大学, 教育福祉学部, 准教授 (40295572)
|
Project Period (FY) |
2010-04-01 – 2014-03-31
|
Keywords | 理科教育史 / 実業教育 / 教育令 / 小学校令 |
Research Abstract |
2012年度は、理科の誕生に影響を与えた実業教育の現実的な展開を中心に研究をすすめた。この研究では、実業教育のなかでも農業教育に主眼をおいて研究をすすめている。明治期においては、日本は未だ農業国であったからである。理科の誕生する1886年前後の農業教育において特筆すべきものは、農学校通則の制定とその廃止である。農学校通則は、1883年に制定され1886年に廃止されている。この廃止については、いまもその理由が明らかとなっていない。農学校通則に規定される農学校は中等教育レベルの学校である。農学校通則はわずか3年で廃止を余儀なくされるという状況のなかで、そうした中等レベルでの実業教育の躓きが初等教育に影響を与えたと考えられる。そうした視点から農学校通則とそれに基づく農学校の研究をすすめた。 具体的には、宮城農学校、開成山農学校(福島)、新潟県農学校、石川県農学校、広島県農学校、倉吉農学校(鳥取)、山口農学校、福岡農学校及び山形県農事講習所についての史料調査をすすめた。このなかで、広島農学校についての調査では、史料を分析して、論文として研究成果をまとめるだけの内容を把握することが出来たので、「広島県農学校に関する一考察」(愛知県立大学教育福祉学部論集、第61号)として執筆した。 この論文では、1879年に広島県農事講習所として設立され、1882年に農学校に改変されて、1886年に廃止されるまでの経緯を、広島県に残る第一次史料に基づいて分析した。とくに、この農学校が農学校通則に基づく第一種であるのか第二種であるのかについて、史料をもとに明らかにした。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
この科研費の申請の際、研究目的(概要)において、「この研究の全体構想は、資本主義発展を第一義的課題として国家建設をすすめた明治国家が、初等教育において志向した科学教育思想と、その科学教育思想のもとで起きた初等科学教育の変遷要因を解明することである。この全体構想のなかで今回応募する基盤研究の目的は、小学校教科としての理科の誕生要因を初等教育における実業教育導入という視座から明らかにすることである。」と述べた。2012年度の研究は、この実業教育の具体的展開を、宮城、福島、新潟、石川、広島、鳥取、山口、福岡の農学校において調査をすすめた。県によって多少の相違はあるものの、どの県においてもおおよそ同様の状況で実業教育が展開されていた。2012年度は、とくに、広島県農学校をとりあげ「広島県農学校に関する一考察」という論文に研究成果をまとめた。2011年度に研究成果を論文としてまとめた長崎県の3つの公立農学校についての調査と同様に、広島においても明治期の資本主義の展開に伴って県において農業分野の教育に力を注ぐものの、経済不況のもとで思惑通りには進まなかった実態が見て取れた。こうした研究から着実に研究目的にかかげた内容を着実に達成しつつあり、これが達成度(おおむね順調に進展している)の理由である。
|
Strategy for Future Research Activity |
過去三年間の研究によって、明治期の実業教育(とくに農業教育)について具体的で詳細に解明をすすめてきた。この研究成果を踏まえて、今後の研究の方向性としては、文部省実業教育全般の流れから、それが初等教育にどのように影響を与え、科学教育の変遷を生んだのかについての考察をすすめることである。 とくに、文部省の実業教育全般の流れと「小学校及小学教場教則綱領」作成との関連の解明をすすめる。「小学校及小学教場教則綱領」は、小学校の種類を第一種普通小学校・第二種普通小学校・農業小学校・商業小学校・工業小学校・高等小学校と6種類設定している。職業別小学校を設定した他に類例のない極めて実業的な小学校教則である。この教則は案の段階で消滅しているものの、ここでの教科設定はその直後の「小学科課程表」に強く影響した。2つの教則の設置教科を比較してみれば分かるように、「小学校及小学教場教則綱領」の第二種普通小学校と「小学科課程表」の尋常小学校ではまったく同一、両者の高等小学校では必置教科部分では前者の「物理」が後者で「理科」となっている以外は同一である。つまり、「小学科課程表」の高等小学校における理科は、「小学校及小学教場教則綱領」の高等小学校における「物理」を置き換えたものとなっている。 理科を初出させた「小学科課程表」にとって「小学校及小学教場教則綱領」は原案ともいえる位置付けをもつものであり、その作成過程の解明は理科誕生を解明するために不可欠の課題といえる。そして、上述したように「小学校及小学教場教則綱領」は極めて実業教育的な教則であるので、これまでの研究成果を踏まえて、この課題に取組む。
|
Research Products
(5 results)