2011 Fiscal Year Annual Research Report
日本の公教育再編期における初等数学教育の改造と変容-『尋常小学算術』とその源流
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22530833
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Research Institution | Meiji University |
Principal Investigator |
佐藤 英二 明治大学, 文学部, 教授 (20339534)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
岡野 勉 新潟大学, 人文社会・教育科学系, 准教授 (30233357)
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Keywords | 尋常小学算術 / 数学教育史 / 塩野直道 / 和田義信 / 遠山啓 / 算術 |
Research Abstract |
本研究の目的は、日本の公教育の再編期(1910~1941)における初等数学教育の実践と理論を叙述することを通して、戦間期の教育の多様な実験と第四次小学校国定教科書『尋常小学算術』との関係を考察し、算数教育の実践、思想、カリキュラムの規定要因を明らかにすることである。これまで戦間期の算術教育を『尋常小学算術』で代表させる理解が支配的であったが、この理解は、戦間期の教育と戦時期の教育との結びつきの検討を難しくさせてきた。今回、戦間期の多様な教育の試みの中に『尋常小学算術』を位置づけることで、世界的に見られる戦時期の学習経験の空洞化を理解する手立てを獲得したいと考えている。 平成23年度に明らかにしたのは、次の3点である。第一に、第一次大戦後の多様な教育の実験の中で、生徒自身が学習活動の主体になることを授業改革のよりどころとする教育実践が開発されてきた。第二に、その実践の経験は、典型的な教材に整理され、『尋常小学算術』や戦時期の一種検定教科書に盛り込まれて普及した。しかし、その過程で、目の前の学習者にとって数学を学ぶ意義は背景に退き、「優れた教材」のパッケージの普及による教育改革が目指された。第三に、戦後教育改革とその退潮の過程で、戦時期の教育とバージニアプランの差異が捨象され、第3次学習指導要領において数学教育における理念の喪失という現在的状況の原型が成立した。以上の点については、下記の雑誌論文で報告した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究対象を『尋常小学算術』そのものから戦前戦後の教育言説に広げる必要が生じたことから、当初計画していた研究の一部に着手していない。しかし、戦時期における学習経験の空洞化のメカニズムを明らかにするという当初の目標には接近しつつある。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は、戦時期における学習経験の空洞化を問題にするものである。そしてこの2年間の研究の過程で、学習経験の空洞化は、今日における教育理念の不在状況と密接に関わっており、その総体をとらえるためには、研究対象を戦後初期まで広げる必要があることがわかってきた。そこで、今年度は、引き続き『尋常小学算術』の分析等を行うとともに、数学教育の理念に関する戦後初期の理解についても研究対象を広げて行きたいと考えている。 そこで、今年度の研究実施計画は次の4点とした。 (1)『尋常小学算術』および戦間期の教育言説の分析(佐藤) (2)『尋常小学算術』における真理性を導入する論理の分析(岡野) (3)戦後初期における「戦時期」の教育に対する理解の検討(佐藤) (4)以上を踏まえた研究成果の報告(佐藤、岡野)」
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