2011 Fiscal Year Annual Research Report
イギリス新教育の「メディア-ポリティクス」と学び・試験に関する教育思想史的研究
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22530839
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Research Institution | Mukogawa Women's University |
Principal Investigator |
山崎 洋子 武庫川女子大学, 文学部, 教授 (40311823)
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Keywords | イギリス新教育 / 学び / 試験 / 知能テスト / シリル・バート / パーシー・ナン / マイケル・サドラー / ベアトリス・エンソア |
Research Abstract |
本研究の仮説は、イギリス新教育思想そのものに両義的な意味内容や自由と試験の双方を充足させる意味が内包されていたのではないか、というものであり、このことは「教育の新理想」や新教育連盟に属していたナン(P.Nunn)やバート(Cyril Burt)の能力論や試験論への意味付与の内実解明によって明らかになる、と考えられる。この解釈枠組みは、研究2年目に相当する平成23年度全期にわたる作業課題の一つ、すなわち研究協力者のRoy Lowe著のThe Death of Progressive Education(2006)の翻訳作業の伸展によって裏付けられた。 また、本研究の月別作業課題では、8月から9月にかけて、ロンドン大学10E図書館及びケンブリッジ大学図書館のアーカイヴに所蔵されている書誌を第一次史料とし、(1)イギリス新教育運動における「試験」・「知能テスト」をめぐる論争とジレンマ、(2)イギリス新教育運動の組織的拡大と思想的混迷に焦点化して研究をすすめた。まず、イギリス新教育運動第III期に登場した「試験」や「知能テスト」をめぐる約10年間の論争を俎上に載せ、「自由」概念の多義性あるいは両義性やその文脈の実態の解明を視野に入れつつ、そこでの議論がどのような状況下で展開されたかを解明した。そして、ナン、新教育連盟の創設を主導したエンソア,新教育連盟を支援したサドラー、新学校・ビデールズ校を創設したバドレーらの見解にある多義性とそれが優性思想に回路を敷いたことを明らかにした。次に、1929年から1934年までに新教育連盟の会合や誌上で展開された「試験制度改革」や「知能テスト」に関して、公教育改革に貢献したサドラー、ナン、バートと教育院報告書の見解や特徴を明らかにし、新教育運動が一枚岩に成り得ず混迷の様相を呈していった諸相を描出した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究において不可欠な第一次史料の約8割は、8月の渡英時に読破することができた。また、研究上の枠組みについては、海外の研究協力者(Richard Aldritch, Roy, Lowe, Peter Cunningham)との再々の会合(英国及び日本)においても、また先行研究者Roy Lowe著The Death of Progressive Education (2006)の論述内容とも整合性あるもの、と了解された。 以上の理由により、本研究はおおむね順調に伸展していると、自己評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の最終年に当たる平成24年度は、本研究の第一次史料を掲載した新教育連盟の季刊誌TheNewEraと新教育連盟の各『国際会議報告書(International Conference of New Education Fellowship)』(1923, 1925, 1927, 1929, 1932, 1936)には、どのようなポリティクスが内在しているかを明らかにする。その際の留意点は、季刊誌への投稿者の背景とコマーシャルをていねいに読み解くことである。 これを推進するため、8月から9月にかけて渡英する。
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