2013 Fiscal Year Annual Research Report
学習材としてのわらべうた・民謡の位置づけに関する基礎的研究
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22530981
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
権藤 敦子 広島大学, 教育学研究科(研究院), 准教授 (70289247)
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Project Period (FY) |
2010-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | わらべうた / 民謡 / 学習材 |
Research Abstract |
本年度は,まず第一に,歴史的研究の総括として,これまで継続的に行ってきた高野辰之の思想に関する検討のまとめを行った。とりわけ,高野の民謡観の考察を深め,わらべうたを含む民謡に対して,初等教育,高等教育をつなぐ立ち位置にあり,国文学と音楽の両方の分野をふまえた見地から高野が提唱してきた内容の先見性を明らかにした。唱歌の作詞者としての側面だけが注目されているが,唱歌への批判を行い,唱歌に期待し,同時に,民俗音楽,民俗芸能の調査,研究,国文学の調査,研究,伝統芸能の調査,研究等の膨大な業績のなかには,「わらべうたは生きている」ことを述べた小泉文夫,「つくり歌のススメ」を提唱する小島美子等に通じる重要な指摘が含まれている。 こうした現代における民俗音楽への視点と教育とを結びつける研究として,今年度は新たに,ブータンの掛け合い歌文化の調査と,ハンガリーにおける民俗音楽研究の現状の調査を行った。ブータンの掛け合い歌はアジア各地に存在する歌による生きた会話の形を残す文化であり,歌を固定した作品としてとらえるのではなく,その場にいる人々によって作り出される,という視点から重要な示唆を与えてくれる。高野も,古くは古代のかがいについて日本歌謡史でふれ,近代においては,演歌の替え歌についてふれているように,替え歌を経由しながら伝承されるようなうたのあり方を重視しているが,アジア地域および日本に残るこうしたうたのメカニズムは,わらべうた・民謡の学習材としての位置づけに重要な意味をもっていると思われる。 加えて,日本のわらべうたの教育に大きな影響を与えてきたハンガリーにおける民俗音楽研究の状況調査によって,ハンガリーから影響を受けてきた日本のわらべうた教育の歴史をとらえなおす研究に着手し,アーカイブをはじめとしたハンガリーの取り組みから多くの示唆を得ることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在までに,当初予定していた研究を行うことができ,海外の状況にも目配りができており,学会等での発表も行うことができた。
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Strategy for Future Research Activity |
これまで,近代日本,戦前の音楽教育史におけるわらべうた・民謡の位置付けを検討し,戦後,日本に大きな影響を与えたハンガリーにおける状況を確認し,加えて,ブータンにおける調査を通して,人々の音楽活動のありようと子どものまなびとの関連を考察してきたが,これらはいずれも,子どもが「まなび」の主体となる音楽科教育の枠組みの再構築への示唆をもつものである。研究最終年度となる本年度は,現在の音楽教育の動向をふまえた実践の方向性を検証するとともに,音楽教育史の視点から高文化と生活文化の連続性に関する理論的枠組みを考察し,ハンガリーの民俗音楽研究と音楽教育との関連性について引き続き考察を深めるとともに,人が自ら主体的に歌う文化の調査を継続することによって,わらべうた・民謡を学習材として子どものまなびに位置付けていくための方向性について総括を行う。
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