2013 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
22540091
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Research Institution | University of the Ryukyus |
Principal Investigator |
神山 靖彦 琉球大学, 理学部, 教授 (10244287)
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Project Period (FY) |
2010-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | ロボット運動 / 位相的複雑さ / 多角形のモジュライ空間 / コホモロジー環 / イデアル / 高さ / 微分同相写像 / ボット・モース |
Research Abstract |
近年、ロボットの姿勢をどの程度自由に変えることができるかを、幾何学の手法を駆使して記述しようという試みが盛んに行われている。用いる幾何学的量は種々あるが、最も精密な記述を与えるものは位相的複雑さである。この量は自然数に値をとるので非常に簡潔である反面、実際に計算することは極めて困難である。 本年度はロボットとして多角形のモジュライ空間を考え、その位相的複雑さを決定するために鍵となる問題を解決した。この問題は、コホモロジー環における、ある元の高さの問題と呼ばれ、長年この方面の研究者の間での懸案であった。問題の概略は以下の通りである。多角形のモジュライ空間には、コホモロジー環と呼ばれる、多項式全体をイデアルというもので割った代数的な構造が対応する。コホモロジー環には、多角形のモジュライ空間の幾何的性質をデリケートに表す元が存在する。この元を何乗すると初めてゼロになるかという、その何乗のことを高さという。本年度の研究実績は、この高さを決定したということである。一般に、与えられた空間のコホモロジー環において、ある元の高さを決定する問題はそれ自身興味ある問題である上に、その空間の位相的複雑さを決定する上で、最も重要な考察である。その意味で、本年度の研究成果の意義は非常に大きい。 なお、高さの決定は最終的には手計算で行い、論文も数学の査読付き雑誌に受理されて出版された。それにこぎつけるために、本年度の補助金で購入したコンピュータを駆使して実験を繰り返し、結論を予想した。 上記のコンピュータ計算には思わぬ副産物があった。多角形のモジュライ空間の間には、微分同相写像が多数存在する。写像が簡単な表示を持っていたとしても、それがモジュライ空間の向きを保つかを判定することは容易ではない。コンピュータの補助により、かなり一般的な写像について、それが向きを保つかどうかの判定を与える定理を証明できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ロボット運動における自由度を幾何学的に精密に記述する量として、位相的複雑さがある。これは自然数に値をとるので定義自身は非常に簡潔である。しかし、その決定は極めて困難である。近年、世界的に広く研究されているロボットは、多角形のモジュライ空間とクモの巣装置である。実際、様々な理由によりこれらがロボットの典型例であることが知られている。本研究の目的は、これらのロボットに対して位相的複雑を決定することである。以下のように、多角形のモジュライ空間、クモの巣装置それぞれについてある程度の本数の論文を出版しているので、課題はおおむね順調に進展している。 1. 与えられた空間上の実数値関数のうち、最も効率よく空間の幾何を反映するものをパーフェクトなモース関数という。一般に空間上にこのような関数を構成することは極めて困難である反面、構成できれば空間の位相的複雑さを決定する上で極めて重要な情報となる。多角形のモジュライ空間上に、パーフェクトなモース関数を構成することに成功した。本課題の補助事業期間は平成22~26年の5カ年であるが、平成22~23年はこのような問題に取り組み、論文を4編出版した。 2. 一般に図形の対称性を測るために、群を作用させることにより情報を読み取る方法がある。クモの巣装置に有限群を作用させて得られる商空間のホモロジー群を決定することは、興味ある問題である。実際、結論は意外で非常に興味深いものであった。平成24~25年はこのような問題に取り組み、論文を4編出版した。 3. 多角形のモジュライ空間およびクモの巣装置について、上記以外の視点での研究も行った。例えば、モジュライ空間上のある関数の積分の数値計算という解析的な仕事、また、巨大なイデアルのグレブナー基底の決定という代数的な仕事である。これらには本補助金で購入したコンピュータを活用した。この方面での論文は計6編である。
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Strategy for Future Research Activity |
平成26年度は研究課題の最終年度であるので、中途になっている問題を解決し、論文を執筆する。この中途になっている問題は非常に魅力的で、今後の位相的複雑さの研究の方向性を左右するので概説する。本研究課題の中心的ロボットは、多角形のモジュライ空間とクモの巣装置である。現在までの達成度の所で述べたように、それぞれについては研究は順調に進んでいる。一方で、これらのロボットを含むようなロボットを構成し、その統一的ロボットの性質を調べることにより既知の結果を含むような定理を証明できれば、非常に完成度の高い理論となる。 平成25年度は、統一的ロボットの有力な候補を発見した。その性質を調べる上で有効だと思われる関数も構成した。その関数がボット・モース関数であることを証明する必要がある。本補助金で購入したコンピュータおよびMatehmaticaという計算ソフトを活用することにより、統一的ロボットの特殊な場合には、問題の関数はボット・モースであることが検証できた。 平成26年度の前半では、この関数がボット・モース関数であることを手計算で証明することである。これは計算方法は確立しているので十分達成可能である。その際、知人であるハウスマン教授に相談する。平成26年度後半では、それまでの成果を纏めた論文を執筆し、国際誌に投稿する。報告者は過去20年ほどの間に、ロボット運動に関する相当数の論文を書いてきたので、平成26年度後半の半年間で読みやすい論文を執筆することは十分可能である。なお、ロボット運動の研究をしていると思わぬ副産物が得られることがある。それはモジュライ空間の体積といった数値実験的なこともあるし、二重被覆空間の底空間のホモロジー群についての例を検索しているうちに纏まった文献がないことに気づき、数学界のためにサーベイを書いたということもある。副産物が得られたら、それについても論文を執筆する。
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