2011 Fiscal Year Annual Research Report
数学的構造化個体群動態学とその感染症数理モデルへの応用に関する研究
Project/Area Number |
22540114
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
稲葉 寿 東京大学, 大学院・数理科学研究科, 准教授 (80282531)
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Keywords | 基本再生産数 / タイプ別再生産数 / 感染症数理モデル / 構造化固体群 |
Research Abstract |
[1]感染症数理モデルや構造化個体群モデルにおいては、基本再生産数とともにタイプ別再生産数(T)の概念が基本的である。タイプ別再生産数は、多状態の個体群再生産システムにおいて、特定のタイプ(ターゲット)の個体がその再生産期間のうちに生産する同種の個体数の平均数として定義されるが、ここで重要なことは直接に再生産する個体のみならず、非ターゲットへの再生産を経て間接的に再生産する個体数もカウントすることである。そのため、非ターゲット個体群だけによる再生産数が劣臨界であるという条件のもとで符号条件Sign(RO-1)=Sign(T-1)が成り立ち、タイプ別再生産数は個体群成長の閾値条件を与える。すなわち、ターゲット個体群のコントロールによって全体の個体群成長を制御する場合の測度になる。これまで、タイプ別再生産数は、定常環境でかつ離散的な状態の場合のみ定式化されていたが、本研究では、一般の変動環境下における新たな基本再生産数の定義に依拠して、変動環境下で連続的な状態変数をもつ構造化個体群に対するタイプ別再生産数の定義と基本的特徴付けを与え、その感染症流行制御への応用例を示した。 [2]人口学、疫学における基本再生産数の概念は、ホスト個体群の動態率や感染率が時間に依存しない自律系の方程式にもとついて定式化されてきた。一方、感染症の伝達率や媒介生物の個体群動態などには明確な季節性、周期性が存在する場合が少なくない。そうした変動環境における感染症流行ないし個体群成長の閾値条件を与えるような、基本再生産数概念の拡張が、これまでHeesterbeek and Roberts,Bacaer,Thieme,Wang and Zhao等の著者によって提案されてきた。本研究では、弱エルゴード的な正の周期的発展システムが一様に原始的(uniformly primitive)であれば、フロケタイプの指数関数解をもつことを示し、それにもとついて、線形常微分方程式ないしはMcKendrick型の偏微分方程式で表される周期的パラメータをもつ個体群(感染症)モデルに関して、Baca\"er,Thieme,Wang and Zhaoによる基本再生産数および次世代作用素の定義を再構成して閾値原理を示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の目標であった変動環境下における構造化個体群の基本再生産数の定義と計算法を定式化して、それが在来の定常環境、周期環境において提起された定義の真の拡張になっていることを示すことに成功している。
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Strategy for Future Research Activity |
基本再生産数は構造化個体群モデルの線形化方程式の基本的挙動を示す指標であるが、非線形システムの正定常解の存在を規定する指標でもある。そこで、一般的な非線形の構造化個体群モデルの特性を利用して、高々周期的であるような環境条件下で、基本再生産数によって定式化される閾値条件のもとでの正の定常解の存在と安定性を示すことを考えたい。またこうした基本理論の応用として、個体や環境の異質性を考慮した感染症数理モデルを考察して、従来の非構造モデルとは異なる流行のダイナミクスを解明するとともに、個体群レベルや細胞レベルでの感染や流行のコントロール政策・方法の妥当性・有効性を検討する。
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