Research Abstract |
Zoltan BaloghによるDowker空間の構造の解析を進めた。Dowker空間とは,単位閉区間との直積空間が正規でない正規空間のことである。特別な集合論の公理を仮定することなく(すなわち,ZFC集合論の体系内で)構成されたDowker空間は,本質的に,1971年のM.E.Rudinによる例と,1996年以降のBaloghによる例が存在するだけである。前者に比べて後者の構成ははるかに自由度が高く,Baloghは彼の例を変形することにより,任意の開被覆がsigma-疎な開細分を持つがパラコンパクトでない空間を構成してK.Nagamiの問題を解決し,さらに,直積空間の正規性に関するMorita予想の完全証明を与えるに至った。一方で,RudinのDowker空間に対しては,その発表直後から多くの研究者によって関連論文が発表されたのに対して,BaloghのDowker空間に関係する結果は,未だにBalogh自身によるものを除いて何も得られていない。すなわち,2003年のBalogh氏の急逝によって,BaloghのDowker空間の研究は凍結された状態にあると言える。BaloghのDowker空間が他研究者の解析を拒む理由は,空間の存在自体には特別な公理を用いないが,その証明において,本質的に,2重の初等的部分モデルを経由する集合論的手法が取られていることである。 本研究代表者と連携協力者の依岡は,自然なDowker空間とよばれる2003年に発表された最も簡明なBaloghのDowker空間に対して,初等的部分モデルを経由しない証明を与えた。Baloghの証明では,構成された空間が可算パラコンパクトでない(すなわち,単位閉区間との直積が正規でない)ことを証明するために2重の初等的部分モデルが使われるが,その部分を組み合わせ論的補題に置き換えることが出来た。我々の補題は,通常のdelta-system補題を繰り返して使うことによって証明されるので,結果として,自然なDowker空間の構成において,初等的部分モデルの使用を回避した証明が与えられた。本成果は,BaloghのDowker空間の今後の研究に寄与するものと期待されている。
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Strategy for Future Research Activity |
トポロジーにおける拡張問題の研究に,BaloghのDowker空間を応用する。BaloghのDowker空間の構造自体の解析はおおむね出来たので,次はその応用の可能性を探ることだと考えている。そのため,集合論の研究者との連携を進める予定である。具体的目標としては,距離空間への単射連続写像を持つDowker空間の構成とPrzymusinskiによる古典的拡張問題の解決を目指す。
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