2011 Fiscal Year Annual Research Report
散逸系のパターンダイナミクスにおけるハミルトン構造とその周辺
Project/Area Number |
22540131
|
Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
桑村 雅隆 神戸大学, 人間発達環境学研究科, 准教授 (30270333)
|
Keywords | prey-predator / dormancy / population dynamics |
Research Abstract |
生物の形態や化学反応系は、エネルギーや物質の消費と流入のバランスによって動的に維持されているシステムと考えられることから、一般に「散逸系」とよばれている。昨年に引き続き、本年度も散逸系におけるパターンダイナミクスに現れるハミルトン構造そのものの研究よりも、生態学や生物の形態形成におけるモデル方程式を研究することに重点をおいた。生態学に現れるロトカ・ボルテラの捕食者-被食者モデルでは、被食者がロジスティック成長して捕食者がHollng II型の機能的反応を持つ場合、被食者の環境収容力が増加すると個体群ダイナミクスは不安定化することが知られている。そのため、たまたま周期解が小さな値をとったとき、わずかな環境変動によって解の値が0になり絶滅が起きやすくなることが示唆される。この理論的な予測に基づいて、Rosenzweigは湖沼生態系における富栄養化の危険性を警告し、環境条件が良くなると絶滅が起きる可能性があるということから、この現象を「富栄養化の逆説」と呼んだ。この逆説を解消するためにロトカ・ボルテラの捕食者-被食者モデルに対して、捕食者の休眠による効果を考慮して、新しい3変数の常微分方程式モデルを提案した。このモデルにおいては、捕食者の休眠が被食者の個体数密度の減少率に依存するということが大きな特徴である。これは、動物性プランクトンと植物性プランクトンからなる捕食者-被食者系において、動物性プランクトンは植物性プランクトンが減少するときに休眠卵を産生するという事実を考慮したものである。数学的な解析によれば、ある条件の下では被食者の環境収容力が増加しても個体群ダイナミクスが不安定化しないことが示された。このことは、捕食者の休眠が被食者の個体数密度の減少率に依存するということが、個体群ダイナミクスの安定化に大きな役割を果たしていることを示唆している。この研究は京都大学生態学研究センターの仲澤剛史との共同研究であり、SIAM J.Appl.Math.Vol.71(2011)において公開された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究成果は毎年、学会発表と雑誌論文において公開されている。このことは、研究の目的がおおむね順調に進展しているということの明白な証拠であるといえる。これ以外の根拠によって、研究の目的が達成されているかどうかを客観的かつ公平に判断することはできないと思われる。
|
Strategy for Future Research Activity |
本研究はおおむね順調に進展しているため、これまでの方策をそのまま実施していくことによって、確実に研究は推進できると予想している。近年の生物学・生態学の発展の成果にもとづき、新しいモデル方程式を提案することは散逸系のパターンダイナミクスの理論研究にも貢献すると思われる。今後は、捕食者の休眠を考慮した被食者-捕食者モデルに空間的な拡散効果を取り入れた反応拡散方程式モデルに現れるチューリングパターンの研究を進めたいと考えている。現時点では、捕食者の休眠はチューリングパターンを生み出すのに直接的な影響をもっているのかいないのかは未解明であり、分岐した周期進行波が実際に観測可能であるかどうかもよくわかっていない。 これらは、今後取り組むべき重要な研究課題である。なお、研究計画の変更あるいは研究を遂行する上での問題点はないと予想される。
|
Research Products
(2 results)