2011 Fiscal Year Annual Research Report
「あかり」スペクトルに基づく褐色矮星大気構造の研究
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22540260
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Research Institution | Japan Aerospace Exploration Agency |
Principal Investigator |
山村 一誠 独立行政法人宇宙航空研究開発機構, 宇宙科学研究所, 准教授 (40322630)
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Keywords | 褐色矮星 / 低温度星 / 大気構造 / 二酸化炭素 / 近赤外線 / 赤外線分光観測 / 「あかり」 / 分子組成 |
Research Abstract |
本研究は、有効温度が極めて低く、恒星と惑星の中間状態にある褐色矮星大気の物理的・化学的状態を、赤外線天文衛星「あかり」によって世界で初めて得られた近赤外線分光観測データを鍵として、大気モデルの構築・改良を通じて理解しようとする試みである。 研究第二年次である本年度は、以下の成果を得た。 1.「あかり」のスペクトルに見られる分子吸収バンドの強度が、現在の大気モデルによって必ずしも再現できないことが、本研究を行う動機になっているが、そのうち二酸化炭素分子の吸収バンドの強度(=分子の存在量)については、炭素および酸素の元素組成量をパラメータとして変化させることで再現出来ることを、昨年後半に発見した。今年度はこの解析を継続し、「あかり」で観測された6天体についての詳細解析の結果を、The Astrophysical Journal 2011年6月20号に発表した。褐色矮星の元素組成にばらつきがある可能性を示唆したのは、この研究が初めてで、今後の進展が期待される。 2.これに引き続いて、研究協力者の東大大学院生空華智子氏により、データ処理を改良して品質を向上させたすべての「あかり」観測データ(18天体)について、二酸化炭素吸収バンドの系統的な解析が行われた。その結果、元素組成の天体による違いがより広範囲に広がっている可能性を示唆した。この研究は空華氏の学位論文の一部としてまとめられている。また、この際にモデルと観測データの比較方法についても検討が進められ、地上観測による「あかり」よりも短波長の近赤外線観測データを合わせて解析し、最も適切なモデルを選び出す手順を確立した。 3.褐色矮星大気モデルの最新の計算機環境への移植作業を進めている。この作業は、想定以上の環境(プログラム言語、データ仕様)の違いにより、計算結果を入念に確認しながら進めたため、現在8割程度完了したところである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
理由:2011年5月に「あかり」衛星に障害が発生し、その後11月に運用停止処置を行うまでの間、相当の時間を衛星運用業務に取られたため、本研究、特にプログラムの移植と改良の作業に費やす時間が充分に取れなかった。一方、空華氏による現プログラムを用いたデータ解析は、予定以上に進展しており、分子組成、温度構造の人為的な調整や、元素組成量をさまざまなパターンで変化させた場合についての計算結果が得られている。今後、プログラムの移植により、新しい物理過程を実装をする準備を速やかに進める必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究で、「あかり」スペクトルを再現するための大気構造の人為的な操作については、一定の成果を得、スペクトルの振る舞いについてはおおむね理解したと考えている。しかし、そのような大気構造を天体の基本パラメータ(有効温度、表面重力など)によって再現することはまだ出来ていない。今後の研究は、より広範なパラメータ範囲での計算によって、大気モデルの特性をつかみ、物理過程の再検討詳細化、新しい過程の実装を試みる予定である。この方針は、当初の計画に沿ったものである。
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Research Products
(2 results)