2012 Fiscal Year Annual Research Report
確率微分方程式を用いたFermi、CTA時代の宇宙線起源伝播モデルの構築
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22540264
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Research Institution | Ibaraki University |
Principal Investigator |
柳田 昭平 茨城大学, 名誉教授 (40013429)
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Project Period (FY) |
2010-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 宇宙線 / 加速と伝播 / Fokker-Planck方程式 / 確率微分方程式 |
Research Abstract |
宇宙線の源を超新星残骸としてはいるが、その発生が時間的にも空間的にも離散的であることを全面的にはとりいれなかったHigdonによる伝播モデルと比較するために、星間物質の空間分布、超新星発生の空間分布はHigdonが採用したモデルと同じものを仮定し、確率微分方程式(SDE)を用いて太陽系に到達した銀河宇宙線の伝播を時間を逆向きにとくことにより宇宙線の年齢および通過物質量のエネルギー依存性を計算した。超新星残骸での宇宙線の加速は、爆発後10^5年間一様に続き、その時の残骸の大きさを標準的な星周物質を仮定したSedov解を用いて30パーセクで一定であることを仮定した。得られた年齢はエネルギーの減少関数で、1 GeV/n近傍での値は約4x10^7年であり、Be-10などの放射性核種の直接観測から推定されている値を再現出来た。通過物質量(PLD)は太陽系に到達したエネルギーが同じであっても一定ではなくある分布を持つ。この事実は観測からは得られないのはもちろんであるが、SDEを用いた我々の方法以外の理論からも予言出来ない極めて重要な情報である。各エネルギー毎にこの分布の平均値を採用してPLDのエネルギー分布を求めた。得られたPLDを用いた荷重付きスラブモデル(weighted slab model)により二次宇宙線(B)と一次宇宙線(C)の比B/Cのエネルギー依存性を計算しCREAM, HEAO3などによる観測結果と比較した。拡散係数の運動量依存性をKolmogorovではなくKraichnan則に従うと仮定すると1 GeV~ 1 TeVのエネルギー領域での観測結果がうまく再現されることをつきとめることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
概要で述べたように、宇宙線の年齢のエネルギー分布、通過物質量(PLD)のエネルギー分布とそれに基づく伝播モデルの妥当性のチェックの鍵となるB/C比のエネルギー依存性を計算しそれぞれの観測結果を再現する伝播モデルを構築しつつある。宇宙線伝播に関する拡散係数の運動量依存性がKolmogorovではなくKraichnan則に従うとした場合が観測結果をうまく説明できることをつきとめたことは一つの特筆出来る成果である。
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Strategy for Future Research Activity |
上述したように1 GeV/n以上のエネルギー領域でのB/C比の観測結果をうまく再現するモデルを構築できたが、ACE衛星による低エネルギー(約100 MeV/n)でのB/Cの観測結果との一致は良くない。具体的な検討事項として銀河風の影響を取り上げ、様々な角度から検討する。また多くの研究者によって提唱されている再加速の影響も検討する。二次フェルミ加速の効果をSDEのシミュレーションに取り入れることは比較的簡単であると予想される。さらにまだ誰もやったことがない規則的な銀河磁場中での宇宙線のドリフト運動が与える影響を検討する。銀河の規則的磁場のモデルは大きくASS(axisymmetric spiral)とBSS(bisymmetric spiral)二つに分けられるがASSとBSSではドリフト運動の様子が全く異なると予想される。特にドリフト運動の向きは粒子の電荷の符号によって逆になるので、陽電子/電子、反陽子/陽子比に大きな影響を与えると予想される。詳細なシミュレーション実験を予定している。
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