2013 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
22540277
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
川合 光 京都大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (80211176)
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Project Period (FY) |
2010-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 弦理論 / 行列模型 / マルチバース / 自然性 / ヒグス場 / インフレーション / 量子重力 / Big Fix |
Research Abstract |
標準模型が確立された現在、プランクスケールで重力まで含めたすべてのものが統一されていると考えるのはきわめて自然であり、その最も有力な候補が超弦理論である。しかしながら、超弦理論は無限に多くの摂動論的に安定な真空を持つため、現実的な予言をするためには、摂動論によらない完全な定式化が不可欠である。その有力な候補が行列模型である。行列模型を解析するのと同時に、最近のLHC等の実験結果を総合し、上記の目標にせまるのが本研究の目的である。 [1]標準模型の高エネルギーでの振舞いについての解析 最近決定されたヒグス粒子の質量から標準模型の高エネルギーでの振る舞いを決定し、標準模型がストリングスケールまで矛盾のない理論であることを示した。この事実のもっとも自然な解釈は、超対称性はストリングスケールで自発的に破れており、それ以下のエネルギー領域には標準模型以外の粒子はほとんどないということである。 [2]上記の結果の副産物として、ヒグス場のポテンシャルはプランクスケールでほとんど平坦となり、ヒグス場自身がインフラトンの役目を果たし得ることを示した。 [3]時空のトポロジカルな揺らぎと自然性 時空のトポロジカルなゆらぎを含む理論では、一般に、低エネルギーの有効作用は必然的に多重局所的なものになることを示し、それをもちいて自然性問題が解決できる可能性を示した。 [4]IIB 行列模型のループ方程式の解析 昨年に引き続き、IIB 行列模型の Wilson loop が弦の場の理論再現していることを示すための議論を発展させた。 [5]宇宙初期揺らぎと弦理論の質量スケール 昨年度に続き、宇宙の指数膨張が、ドジッター時空中での弦理論の様々なモードの量子揺らぎにより引き起こされる可能性について考察した。特に、宇宙の指数膨張がどのように始まり、どのように終わるかを記述する方程式を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
研究実績の概要にのべた[3]~[5]は、昨年度から引き続き順調に発展しており、順次論文として成果を発表している。特に、多重局所的な低エネルギー有効理論とマルティバースによる自然性問題の解決の可能性は、次に述べるヒグス粒子の物理や宇宙初期のインフレーションとも密接に絡んでおり、今後さらに発展すると思われる。 以上の発展に加え、研究実績の概要の{1},[2]でのべたように、LHCによるヒグス粒子の発見により高エネルギー領域で重要となる標準模型のパラメーターが完全に決まり、ストリングスケールとのつながりが急速に見えてきている。特に、本研究の一環として、標準模型がストリングスケールまで矛盾のない理論であり、しかも、ヒグス場のポテンシャルはストリングスケールでほとんど平坦となることがわかった。これは、ヒグス場自身がインフラトンの役割を果たすことができることを示しており、今後の宇宙論的な観測と比較できる予言がえられる。 これらの結果は、超対称性を仮定する現象論を自然は採用していないことを強く示唆しており、むしろ本研究で考察を続けているような新しい普遍性の存在を示している。 以上のように、弱電磁スケールとストリングスケールが一気につながる可能性が開けてきており、いわばポストLHCの素粒子論が開けつつあるようにみえる。
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Strategy for Future Research Activity |
具体的な研究方法としては、数値的および解析的な考察を並行して進める一方で、研究会、セミナーなどを通じて、各地の素粒子物理、場の理論、物性理論、宇宙論、数理物理などの専門家たちと幅広く交流することによって、新しい視点を開き問題を解決していく所存である。また、上にのべたように、ヒグス粒子の発見を契機として、電弱スケールの物理とプランクスケール、あるいはストリングスケールの物理が直接つながる可能性がでてきたので、LHCやはじめとする素粒子実験や、種々の宇宙論的観測サイドの専門家との交流も進めていく予定である。
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