2011 Fiscal Year Annual Research Report
多端子量子ドット系の理論研究:制御可能なスピンホール効果の提案
Project/Area Number |
22540333
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
江藤 幹雄 慶應義塾大学, 理工学部, 教授 (00221812)
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Keywords | 量子ドット / メゾスコピック系 / スピンエレクトロニクス / スピン軌道相互作用 / 近藤効果 / ナノワイヤ / ジョセフソン接合 |
Research Abstract |
本研究の目的は、半導体量子ドットの多端子系を理論的に研究し、スピン軌道相互作用によるスピンホール効果、近藤効果によるリード間のエンタングルメント生成、および位相緩和を解明することである。今年度は次の成果を挙げた。 1.前年度に定式化した多端子量子ドットでのスピンホール効果の研究を発展させた。空間を離散化したtight-binding modelで現実的な系を表し、スピン注入効率を数値的に評価した。次に、スピン軌道相互作用と磁場が共存する効果を解析計算と数値計算の2つの手法で調べた。共鳴トンネルの条件を電気的に制御することで、2端子系においても大きなスピン注入効率が得られることがわかった。 2.自己成長型のlnAs量子ドットのg因子を調べ、スピン軌道相互作用に起因する異方性を明らかにした。量子ドットの異方形状をモデル化し、Rashba型の相互作用を取り入れて数値計算をおこなった。樽茶教授(東大工)のグループの実験結果と定性的な一致を見た。 3.大きなスピン軌道相互作用のはたらくInAsナノワイヤの両端に超伝導体を接続した系を調べた。不純物散乱とスピン軌道相互作用をランダム行列理論で取り入れ、アンドレーフ束縛準位、およびジョセフソン電流を計算した。磁場下でのゼーマン効果も考慮することで、デルフト工科大学の実験結果を定性的に説明した。この研究は同大学のNazarov教授との共同研究によって進めた。 4.量子ドットの近藤領域における弾性過程と非弾性過程の分離方法を開発した。有限温度の電気伝導度において、弾性過程からの寄与を散乱問題に基づいて定式化した。全電気伝導度との差として非弾性過程の寄与を評価した。近藤温度の近傍でフェルミ流体論と局在スピン描像のクロスオーバーが生じるが、その領域で非弾性過程による位相緩和が最大になることを見出した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
量子ドットにおけるスピンホール効果については研究成果がまとまり、現在論文を執筆中である。近藤領域での位相緩和の研究も進展した。また、当初の目的には入っていなかったジョセフソン接合におけるスピン軌道相互作用の研究を開始した。計画を拡張しつつ順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題は2年が終わり、量子ドットにおけるスピンホール効果についてはまとめの段階に入った。現在研究成果について論文を執筆中である。今後の研究計画は、多端子系での近藤効果や位相緩和の解明などで大きな変更はないが、ジョセフソン接合におけるスピン軌道相互作用の研究を追加して進展させる予定である。
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