2011 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
22540340
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Research Institution | National Institute for Materials Science |
Principal Investigator |
井上 純一 独立行政法人物質・材料研究機構, 理論計算科学ユニット, 主任研究員 (90323427)
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Keywords | トポロジカル絶縁体 / 光誘起現象 / 量子相転移 |
Research Abstract |
スピントロニクスデバイス材料への展開などの期待感から,近年トポロジカル絶縁体が大きな注目を集めている.試料作成上避けられない不純物の混入に対しても輸送特性が損なわれないなどの特徴が際立っている.トポロジカル絶縁体は,いわゆる強相関電子系とは異なり,その特性は電子間クーロン相互作用ではなく,特異なバンド構造に起源を持ち,電子のベリー位相として知られる要素が重要な役割を果たす.この系の特性を何からの手段で外部から制御することができれば,材料としてのポテンシャルが飛躍的に増大すると考え,本課題では,レーザー光を能動的に用いて電子のベリー位相を制御しようとする,光学的断熱操舵理論を提案している.これまでに,その手法を用いて,BNシート/チューブでの非線形電気分極や,2次元トポロジカル絶縁体のミニマム模型での光誘起量子トポロジカル相転移を報告してきた.今年度は,これらに引き続き,もっとも一般的な2次元トポロジカル絶縁体模型に対し,量子化されたスピン流が光学的に制御できることを報告した.一般的な2次元トポロジカル絶縁体では,時間反転対称性が保たれていることと関係して,Z2トポロジカル数と呼ばれるものが量子相を特徴付ける秩序変数となる.このトポロジカル数はいくつかの等価な表現を持ち,本課題ではそのひとつであるスピンチャーン数という量子数を用いて,量子相と通常相を区別する相図を求めることで,光学的に量子相転移を起こせることを示した.ここで得られた成果は,トポロジカル絶縁体の基本的な性質を単純にデバイスに使用する段階ではなく,外場を用いたスイッチングなどへの応用を視野に入れた基礎研究の端緒になると期待され,今後は,より実験を意識した方向へ理論展開を図りたい.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度,および今年度に出版された論文数は計4本であることから,個人が推進する理論研究の成果量としては,水準以上と考える.報告された成果は,当初期待した想定の範囲にとどまっており,いわゆるセレンディピティが創造されたとは言い難い点から,質の面で当初の計画以上とは評価できない.
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Strategy for Future Research Activity |
これまで行ってきた研究対象は,解析手法の選択がもたらす曖昧さを排除することを勘案し,現実の物質を模倣するというよりは,厳密な数物的論理展開が可能になる点を優先して選定した.従って,得られた結果を直ちにリアルな実験に反映させるという点については,乖離があると言わざるを得ない.そこで,最終年度は,実際にトポロジカル絶縁体と認識されている物質群を念頭に置き,これまで扱ってきた数物的模型との接続をはかり,実験への提言も可能であれば行いたい.
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Research Products
(3 results)