2011 Fiscal Year Annual Research Report
フラストレーションを持つ単分子磁石連結2次元ネットワークにおける磁気ダイナミクス
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22540351
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Research Institution | Toho University |
Principal Investigator |
齊藤 敏明 東邦大学, 理学部, 教授 (80170512)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
加知 千裕 東邦大学, 理学部, 講師 (80453851)
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Keywords | フラストレーション / スピンアイス / 単分子磁石2次元ネットワーク / 磁気緩和 / ランダム異方性 / 物性実験 |
Research Abstract |
単分子磁石ユニット(SMM)ユニットをイオン錯体(M)で連結した層状2次元ネットワーク [Mn(saltmen)]_4[M(CN)_6]ClO_4・nH_2Oは面内で直交する二つの局所的磁気異方性容易軸を持つ。本研究では、MをCo(S=0),Fe(S=1/2),Mn(S=1)などと変えて合成し、ユニット-錯体間の磁気結合遊様々に変化させ、どのようなネットワークの磁気的基底状態が得られるかを調べている。23年度までの研究により、強磁性的なJを持つM=Fe,Mnの場合は特異な磁性が見られ、磁気特性、磁気緩和、比熱などの解析から、それは局所的な異方性Dと強磁性的なJとの間でフラストレーションが生じていることに起因することが示唆された。特にM=Mnの場合は、Davidson-Cole型の特殊な緩和にしたがい、2Kまで磁気的オーダーが見られず、これまで報告例が無い2次元のスピンアイス的な状態になっていることが予想された。一方、M=Feの場合は、2.6K付近で磁気秩序を持ち、Cole-Cole型の多分散的な緩和が見られた。これは、ランダム異方性を持つアモルファス希土類・遷移金属合金に多く見られるスピングラスに似た相転移を示唆する。M=Feの場合は結晶水の抜けが多いことから、上の結果は、この系のスピンアイス状態が何らかの乱れによって、ランダム異方性を持つ系に秩序化する可能性がある事を示唆する。そこで、23年度は、特にM=Mn_<1-x>Co_xとMn_<1-x>Fe_xを一部合成し、SMMの連結部の乱れがネットワークの磁気転移に与える影響の調査を開始した。交流磁化率の緩和解析の結果、Mn_<1-x>Fe_xの場合、x~0.1でDavidson-Cole型の緩和が消失した。これは、新しい知見をもたらし、乱れによりスピンアイス状態が壊れることを示唆する。この結果と、典型的な3次元スピンアイスであるパイロクロア化合物と直接比較するために、Bサイトを乱したDy_2(Ti_<1-x>Zr_x)_2O_7を合成し、同様の実験を行っている。また、昨年度に引き続き、saltmenの化学修飾したり、層間のカウンターアニオンを変えた試料を合成し、D/Jの変化をねらった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
合成では、フラストレーションのコントロールという面から、層内の構造変化やカウンターイオンの変化を中心に作製を続け、おおむね順調であるが、それらの系統的な測定は一部しか着手していない。測定では、M=Mnにおいて、2次元スピンアイス的な振る舞いを見出したので、その性質の理解を深めるため、典型的な3次元スピンアイスを新規に合成し、その緩和を測定して、M=Mnと比較を行ってきた。特に、元素置換や構造の乱れによるスピンアイス状態の融解をキーと考え、M=Mn、パイロクロア化合物両試料の合成と測定に時間を多くさいた。その結果は一部、23年度の物理学会に発表し、進展を見た。一方で、比熱の実験結果の解析、モデルとの比較、論文化などによる公表は遅れている。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の対象である単分子磁石連結2次元ネットワークの磁気的性質、特にフラストレーションによる2次元スピンアイス的な描像についての理解は深化しつつあるので、最終年度では、この系の化学修飾や元素置換、構造変化によるフラストレーションのコントロール、乱れによるスピンアイスの融解などを中心として実験的な研究をさらに発展させる。それと同時に、得られた結果を、国際会議(ICM)での発表や論文として公表していくことに時間を費やす。問題点としては、夏の電力供給不足に対する政府の計画停電によって、実験の中断や遅れなどが懸念される。これに対しては、測定項目に優先順位をつけて、測定できるときに対応していく。
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Research Products
(7 results)