2011 Fiscal Year Annual Research Report
新たな自己無撞着摂動展開法によるボーズ・アインシュタイン凝縮相の理論的研究
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22540356
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
北 孝文 北海道大学, 大学院・理学研究院, 准教授 (20186224)
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Keywords | ボーズ・アインシュタイン凝縮 / 超伝導 / BCS-BECクロスオーバー / 自発的対称性の破れ / ゴールドストーンの定理 / 南部-ゴールドストーン・ボゾン / 自己無撞着摂動展開 / 保存近似 |
Research Abstract |
本年度の研究では二つの主な成果が得られた。第一に、ボーズ・アインシュタイン凝縮(BEC)相において、個別励起(一粒子グリーン関数の極)と集団励起(二粒子グリーン関数の極)が全く別物であること、そして、それらが共に南部-ゴールドストーン(NG)・ボゾンとみなせることを明らかにした。広く知られたガボレ-ノジエール理論(1965年)によると、BEC相における個別励起と集団励起は、同じ密度揺らぎであり、弱い相互作用の極限でボゴリュボフ・モードに一致し、また、強結合領域では超流動4Heで観測されるフォノン-ロトン曲線に移行する。今回得られた結果は、この通説を覆すものであり、ボーズ・アインシュタイン凝縮の基礎理論に変革を迫る重要な結果である。さらに、別物とわかったBEC相の個別励起と集団励起が、共に、自発的対称性の破れに伴うNGモードであることも指摘した。従来は、BECに伴う「ゲージ対称性の破れ」により、ただ一種類のNGモードが出現すると考えられていた。しかし、ゴールドストーンの定理の証明には二種類あり、それらを詳細に再検討した結果、二つが異なる意味を持ち、BEC相では個別励起と集団励起に対応することを明らかにした。この結果は、基礎物理学一般にとって、非常に重要な成果であると考えている。第二に、超伝導相に対して、すべての対形成過程を簡潔に取り込む新たな自己無道着摂動展開法を開発した。BEC相は、バーディーン-クーパー-シュリーファー(BCS)理論によって記述される弱結合フェルミ超流動状態から、引力を強めて行った極限状態であると見なせる。しかし、このBCS-BECクロスオーバー問題は、従来、平均場理論や一部の対形成過程のみを取り込む理論で解析されてきた。この状況を大きく改善し、すべての対形成過程を取り込む系統的自己無撞着摂動展開法を開発した。これは、超伝導の理論にとり、大きな成果である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初予定していたのは、自己無撞着二次摂動論による一様BEC相の解析である。これに代えて、BEC相の個別励起と集団励起を詳細に研究し、それらが別物であることをゴールドストーンの定理と関係づけながら明らかにした。これは、BEC相の素励起に対する通説を覆すことを意味し、BEC理論を新たな基盤の上に載せる大きな成果であると考えている。一方、超伝導状態については、初期の計画通りの成果が得られた。
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Strategy for Future Research Activity |
弱く相互作用するボーズ粒子系を、自己無撞着摂動論により考察し、BEC転移温度とその近傍の臨界的振る舞い、全温度領域における熱力学的性質、個別励起の詳細な性質等を解明してゆく予定である。また、超伝導状態においても、新たに開発した自己無撞着摂動展開を用いて、BCS-BECクロスオーバー問題に対する揺らぎの影響などを解明してゆく予定である。
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