2011 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
22540377
|
Research Institution | National Institute for Materials Science |
Principal Investigator |
胡 暁 独立行政法人物質・材料研究機構, 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点, 主任研究者 (90238428)
|
Keywords | 鉄ニクタイト超伝導 / 多成分超伝導 / Leggettモード / 超伝導位相 / フラストレーション / 南部・ゴルスドンモード / 時間反転対称性 |
Research Abstract |
BCS理論が示すように、多くの超伝導は結晶格子振動を媒介にして電子対が組まれることに起因する。1986年に発見された銅酸化物高温超伝導は、それまでの超伝導相転移温度を100度以上押し上げた。電子間の直接相互作用から生じる磁気エネルギーがノリの役割を果たしているからである。しかし、電子間相互作用は基本的に斥力であり、超伝導の元になっている電子ペアリングとは相性が良くない。2成分超伝導では、位相を互いに逆にすれば、電子間の斥力を実効的に引力に変えることができる。 3成分超伝導はどうなっているだろうか。互いに斥力を及ぼす3成分が共に満足する状況が作れず、それぞれ部分的に妥協して系全体の安定を図らざるを得ない。この位相フラストレーション状態から新奇な超伝導現象が生まれることが我々の研究で明らかになった。 多成分超伝導体では、成分間の超伝導位相差が振動し、その空間での伝搬様式がLeggettモードと呼ばれている。一般的に、Leggett振動はエネルギー損失を伴うので、減衰しやすい。しかし、3成分超伝導の位相フラストレーション状態は完璧な安定状態ではないので、位相の振動が起きやすい。その結果、Leggettモードが非常に柔らかく、超伝導体の中で減衰することなく安定に存在する。 エネルギーのかからないゼロ質量Leggettモードはまた実験的に直接的に観測されていないが、その傍証が既にある。今までに鉄系超伝導体の低温電子比熱の温度・磁場依存性について、既存の理論では互いに矛盾に見える実験結果が報告されていたが、ゼロ質量Leggettモードが存在していれば、実験事実が統一的に説明できることが判明した。 超伝導位相の振動に伴う南部・ゴルドストーンモードは、位相と電磁場との結合により、質量を持つプラズマ振動になることがBCS理論の誕生から間もなく判明した。それに対して、Leggettモードは超伝導成分間位相差の振動であり、電磁場と直接的に結合しないので、質量が生まれることがない。フラストレーション状態を伴うLeggettモードは超伝導の初めてのゼロエネルギー集団励起であり、その解明は超伝導現象の本質を理解する上で重要な意味を持つ。今後、ラマン散乱等の実験手法による直接的な観測が期待される。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究で解明したフラストレーション状態を伴うLeggettモードは超伝導の初めてのゼロエネルギー集団励起であり、その解明は超伝導現象の本質を理解する上で重要な意味を持つ。Leggettモードの超伝導体の中での伝わり方から、超伝導状態での電子運動に関する新しい情報が得られる。
|
Strategy for Future Research Activity |
位相フラストレーション超伝導状態では、分数化された磁束量子が現れ、高精度のSQUIDに利用できる。位相フラストレーション超伝導状態には時計周りと反時計周りの双子があり、量子ビットの新しい実装方式として役立つだろう。プロジェクトの最後の年に当たり、これらの研究課題を完成する予定である。
|
Research Products
(14 results)