2011 Fiscal Year Annual Research Report
自由エネルギーランドスケープ理論を用いたガラス転移現象の解明
Project/Area Number |
22540400
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Research Institution | Tokyo Denki University |
Principal Investigator |
小田垣 孝 東京電機大学, 理工学部, 教授 (90214147)
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Keywords | 非平衡系 / 統計力学 / 物性理論 / ガラス転移 / 密度汎関数理論 / 自由エネルギーランドスケープ / 構造エントロピー / 繰り込み群 |
Research Abstract |
ガラスなど非平衡状態にあるにも拘わらず長時間安定に存在できる系を記述する統計力学を構築するために、原子の速い運動から決まる自由ネルギーランドスケープ(FEL)を用いた非平衡系の緩和現象の考察、密度汎関数理論を用いた凝固現象の研究とFEL描像の検証に必要な分子動力学(MD)シミュレーションによるモデル系のガラス転移に関する情報の収集を行ってきた。まず、レナード・ジョーンズ・ガウスポテンシャルで相互作用する粒子系(LJG系)のMDシミュレーションの結果を論文として公表した。また、LJG系の広いパラメーター領域で固液相図を理論的に求め、凝固温度が低くなって、ガラス化されやすい領域が存在することを明らかにした。ついで、誘電応答の線形及び非線形感受率からガラス転移に関する三つの特異温度が決定できるという理論を論文として公表した。この理論を発展させ、温度変調を加えた系の誘電応答をFEL描像で解析し、2次の応答の感受率から三つの特異温度が決定できることを示した。FEL描像により熱力学的な性質も扱えるという特徴を生かして、非平衡系におけるエントロピーと比熱の解析を行い、構造エントロピーに二つの寄与があることを世界で始めて明らかにした。さらに、FEL上の代表点の運動を繰り込み変換で扱う理論にも着手した。代表点の運動は、その経路にしたがった記述をすれば1次元経路上のランダムウォークで記述できるので、1次元格子上のランダムウォークを用いて、繰り込み変換と平均場理論とを組み合わせた近似理論の解析を行い、シミュレーションとの比較から、より精度の高い結果が得られることを示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、理論的解析と分子動力学シミュレーションから構成されており、両者とも順調に成果が出ている。さらに、繰り込み群による解析に取りかかり、ガラス転移の本質に迫る研究をスタートさせることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
繰り込み群によるガラス転移の理解は最重要課題であり、今年度はその最終目標に向けた取り組みを行う。また、23年度に新しく世界で始めて取りかかった、温度変調に対する系の応答は、自由エネルギーランドスケープを直接観察する手段として注目されており、さまざまな物理量に対する応答の解析など、新たな展開を行う。
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