2011 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
22540410
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
谷村 省吾 名古屋大学, 情報科学研究科, 教授 (90273482)
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Keywords | 測定理論 / 超選択則 / 孤立保存則 / 共変的指針 |
Research Abstract |
内容:拡張されたベル不等式の破れの検証を確実なものとするため、隠れた変数理論モデルの存在の必要十分条件を明らかにすることを目指していたのだが、その前に測定可能な物理量のクラスを明らかにする必要があるという問題につきあたった。この問題を解決するため、物理量の測定可能性を判別する方法として超選択則を研究した。本研究により、超選択則を、孤立的保存則(isolated conservation law)と測定過程の力学の結果として演繹することに成功した。 意義・重要性:そもそも「超選択則は物理量が測定可能であるための必要条件であり、測定過程の力学の帰結だ」と明確に位置づけた論文を私は見たことがない。Wightman(1995)が測定可能性の必要条件という位置づけに言及したことはあるが、それでも天下り的なルールとしての説明にとどまっていた。Doplicher-Haag-Robertsによる超選択セクターの分析もあるが、なぜ超選択則というものがあるのかという機構についての踏み込んだ理解はされていなかった。本研究では、対象系のみではなく、それと相互作用している測定器を考慮に入れ、相互作用の対称性の帰結として、天下り的でないアプローチで超選択則を演繹したという意義がある。つまり、超選択則の神秘的な粉飾を取り払い、力学的に見て当然の帰結であることを明らかにした。また、誤差ゼロという理想的で非現実的な測定器に替わって、共変的指針(covariant indicator)という概念を導入し、現実的な測定の概念装置を定式化した。これも今後の測定理論の発展に寄与することであろう。 その他:雑誌「理系への数学」や「日経サイエンス」に量子力学の解説記事を書くことにより、量子測定理論の普及に務めるとともに、当分野についての知識の整理が進んだ。超選択則の証明も、この解説記事に触発されて考えついたことである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
測定可能な物理量のクラスを決める超選択則の演繹に成功したことにより、測定可能性を確保するためには何をすればよいのかということも判明した。これらの知見について論文を書いて投稿した(arXiv: 1112.5701)のだが、「そんなことは前からわかっている」という意味の査読レポートを受け、戸惑っている。既知の知見であればそれが書かれている論文をレフェリーが示唆するのがフェアだと思うが、レフェリーは「そんなことはわかっている」と言うだけで、文献上の証拠は示そうとしなかった。そのために、今後の研究の進め方を見直さざるを得ない状況になっている。
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Strategy for Future Research Activity |
論文の新奇性が認められないというレフェリーの言葉を真摯に受け止め、測定可能量のクラスを明確に規定する超選択則の導出の新奇性が誰にでもわかるようにするため、共変的POVMを用いても超選択則の導出が可能であることを示す。また、Doplicher-Haag-Robertsの条件を満たさない系である、円周上の量子力学の解析を行い、私の測定理論的超選択則の方法が有効であることを立証する。
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