2011 Fiscal Year Annual Research Report
環境制御型透過電子顕微用を用いた生体高分子の直接観察法の開発
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22540418
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Research Institution | Tokyo University of Agriculture and Technology |
Principal Investigator |
箕田 弘喜 東京農工大学, 大学院・工学研究院, 准教授 (20240757)
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Keywords | 環境制御型電子顕微鏡 / 位相差電子顕微鏡法 / 生体高分子 / 位相板 |
Research Abstract |
生体現象の研究では、機能発現過程の構造を分子レベルの空間分解能で直接観察して調べることが重要である。しかしながら、このような性能を有する分析手法は存在しない。透過電子顕微鏡法は、ナノスケールの空間分解能での構造を実時間観察することが可能な装置であるが、その嫌気性、嫌液性のため、通常の使用法では生物試料を生きたまま直接観察することはできない。そこで、この分野の研究の飛躍的に発展させるために、液体中での生体高分子の構造を無染色で直接高分解能観察可能な透過電子顕微鏡法を開発することを目的として研究を進めている。 今年度得られた成果を記す。昨年度の成果である水層厚さ100nmにおいて、分解能10nmという結果を受けて、分解能を劣化させている原因を像シミュレーションにより調べた。その結果、水の膜に加えてガスの層による像質劣化の影響が大きいことが分かった。そこで、環境制御セルを改造し、ガス層のないセルを用いて像観察を行った。その結果、分解能が2nm程度まで向上した。これにより、今まで使用していた位相板の安定度が思いの他低く、このことが像のコントラストや分解能に大きく影響していることが分かった。実際、炭素膜位相板自身に経時変化があることが確認された。これを克服するため、従来の炭素薄膜位相板に変わる薄膜位相板の作製も行うこととした。 また、当初の計画にはなかったが、焦点距離の長い結像レンズと位相差法を組み合わせることで、従来の結像レンズを利用する場合に比べて、像コントラストが向上する可能性があるとの着想を得て、実際に検証実験を行い、予想通りの結果を得ることができ、コントラスト向上を実現する光学条件を新たに見出した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
活きた状態で生体高分子を直接観察するために、環境制御型電子顕微鏡に位相板ホルダーを取り付け、位相差電子顕微鏡法を用いて、液中の生体高分子の可視化を実現した。ガス層が100torr程度で水膜が100nm厚さの場合得られる分解能は10nm程度であった。分解能を向上するために環境制御セルの構造を改造し、たところ、分堺能が向上した。また、さらなる像質向上のために、炭素膜以外の材料を用いた位相板作製も行い、より安定性の高い位相板作製法について検討を行い始めた。更に、当初の計画にはなかったが、結像時の光学条件の工夫により、像コントラストを向上する方法を開発し、その実証を行った。この新しい手法を有効に利用することで、当初想定していた性能向上を上回る結果を得ることが期待できるようになった。
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Strategy for Future Research Activity |
安定動作する位相板の作製方法について条件最適化を進め、コントラスト、分解能の向上を目指す。現在使用しているのは炭素膜の薄膜位相板であり、この位相板の問題点の1つは、電子線照射による炭素膜の構造変化である。そこで、より構造安定性の高い膜として、SiN非晶質膜を用い、この膜の導電性を向上させるために、不純物を導入してキャリア注入を行い、位相板としての動作確認を行う。目標とする分解能は1nmである。環境制御セルの構造改良により既に、2nm程度の分解能を持つ像が得られており、達成可能な目標であると考えられる。
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Research Products
(11 results)