Research Abstract |
平成22年度は,8月21日~29日に,現世サンゴ礁北限周縁の琉球列島背弧側に位置するトカラ列島宝島・小宝島沖東方沖の島棚および島棚斜面上部について,小型船舶を用いて,ブーマー音波探査装置による表層礁性堆積物の分布・構造の検討,音響掃海機による高精度海底微地形調査による礁堆積体の識別,ならびに小型水中ビデオによる海底観察を行った.その結果,小宝島南東方~東方沖の水深100~120mの島棚域において,複数の礁岩群を見いだした.本島棚は,構造運動と火成活動により,不規則かつ複雑な地形を示し,一部には急崖が発達する.これらの不規則な海底面には,広く火山岩などの基盤岩が露出しているが,一部に比高10m程度の高まりが存在する.小型水中ビデオによる海底観察の結果,これらの高まりは,表面が数十cm程度のきわめて凹凸に富んだ形状を示すマウンド状の礁岩であることが判明した.これら礁岩は,粗粒な炭酸塩砂礫底中に点在しており,比高数~10m,幅数~数十mの規模を有し,種々の造礁生物により形成されている.また礁岩表面には,しばしば現世サンゴモなどの被覆性造礁生物が覆っているのが観察され,さらに少数ではあるが,マイクロアトール状の形態を示す塊状サンゴが認められる.以上より,これらの礁岩は,かつてのサンゴ礁,あるいは造礁サンゴの分布を示すものである可能性が指摘され,またこれらの分布水深,ならびに礁岩上に堆積物が皆無に等しいこと,さらには小宝島が最近1万年で約8mの速度で隆起していることから,これらの礁岩は最終氷期(約20,000年前)に形成された可能性が高い.このことは,琉球列島域における現在のサンゴ礁北限域近傍において,氷期にあっても前弧側の喜界島だけでなく背弧側にもサンゴ礁が存在していた可能性を示唆し,氷期における黒潮の流路に関し,大きな情報をもたらすものと考えられる.
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