2011 Fiscal Year Annual Research Report
不凍タンパク質の機能発現と水の動的クロスオーバーの関係
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22550024
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Research Institution | Fukuoka University |
Principal Investigator |
吉田 亨次 福岡大学, 理学部, 助教 (00309890)
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Keywords | 生物物理 / タンパク質 / 水和 |
Research Abstract |
FRM-II(独ミュンヘン)に設置されている飛行時間型中性子非弾性散乱分光器TOFTOFを使用して、水を吸着させた不凍タンパク質の中性子非干渉性準弾性散乱を測定した。不凍タンパク質はA/F protein社から購入し、水和率は0.4に調整した。温度の低下ともに水和水分子の運動性が低下し、220K付近で分光器の測定分解能以下となった。つまり、他のタンパク質で観測されているタンパク質のガラス転移が不凍タンパク質においても観測された。 この現象が不凍タンパク質の水和水の構造変化によるものかどうか調べるために、同一の試料について、同じ温度範囲でX線回折測定を行った。乾燥状態のタンパク質からの散乱を差し引き、水和水の動径分布関数を得た。2.8Åと4.5Å付近にピークが見られ、水和水では二次元平面上に六員環を形成するように水分子が配置された構造を取っていることが分かった。温度が低下すると、これらのピークはシャープになり、水の構造化が進行することがわかった。しかし、220K付近においても、水和水の動径分布関数に大きな変化は見られなかった。これは、メソポーラスシリカに閉じ込められた水が220K付近で高密度水―低密度水の転移を起こすことと異なっている。したがって、タンパク質のガラス転移は水和水の構造転移に起因するものではないとの結論を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究はタンパク質分子と水分子の相互作用による水和水の構造や運動の変化を調べるのが目的である。本年度までに水和した不凍タンパク質のX線回折や中性子非弾性散乱測定を実施し、水和水の構造とダイナミクスについて明らかにした。その結果、細孔物質に閉じ込められた水(細孔水)とタンパク質水和水ではともにfragile-strongクロスオーバーが見られた。一方、細孔水と異なり、タンパク質水和水では高密度水ー低密度水の転移が見られないことがわかった。
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Strategy for Future Research Activity |
水和した不凍タンパク質のX線非弾性散乱実験をSPring-8で実施する。不凍タンパク質の水和水について、構造と運動の両方の情報を含む集団ダイナミクスが明らかにする。また、他のタンパク質(β-ラクトグロブリンやF-アクチン)の水和水の構造とダイナミクスを調べ、本年度で得られた不凍タンパク質の結果と比較する。そして、タンパク質の機能と水和水の役割について考察する。
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