Research Abstract |
本研究はフタロシアニンの骨格中心部(コア)を修飾した「コア修飾型フタロシアニン」を合成し,新しい錯形成能,熱特性,分光特性を見出すことを目的としたものである.平成23年度は,22年度の結果を踏まえ,研究成果の一部を論文として報告するとともに,更なる研究分野の発展を目指して,以下の2つのアプローチによる研究を行った. 1つめのアプローチは,フタロシアニンコアに2つのアルコキシ基を付与した錯体を用いた可溶性熱変換型フタロシアニン前駆体の開発である.昨年度の研究の結果,マイルドな条件で塩基を利用したフタロシアニン合成を行うと,アルコキシ基により共役が切れたフタロシアニン類縁体が簡便に合成できることが分かった.また,この化合物を加熱することで,アルコキシ基の脱離と芳香化が起こり,フタロシアニンが生成することが示された.そこで,この化合物を用いて,アルコキシ基の長さを種々に変化させることで,フタロシアニン前駆体の溶解度の向上,また熱変換特性の改良を試み,最終的にヘキサンなどの炭化水素系溶媒に対しても溶解度を示す前駆体の合成,並びにその詳細な熱変換特性の解明に成功した.これにより,フタロシアニンの有機薄膜太陽電池等のデバイスへの応用が加速されることが期待できる. 2つめのアプローチは,フタロシアニンコア部分に複数の金属イオンを持つ誘導体の合成と電子状態の解明である.この化合物も上と同様の新しい分子設計指針に基づく手法開発の結果,合成が可能となった化合物である.フタロシアニン骨格は一般に強直で直角構造を作りやすいため,本研究で得られた副核錯体は2つの金属イオンが近距離に,かつ高い配位対称性を保ったまま存在している点が重要である.電気化学的,分光学的実験の結果,この錯体中では金属が混合原子価状態をとりやすく,また,その状態が架橋配位子の有無によってコントロールできることが示された.このような,架橋配位子による混合原子価錯体の電子状態制御は例がなく,基礎科学的な視点からも,非常に重要な成果が得られたといえる.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
一部データが出揃わない部分があるため,論文化は24年度に持ち越しとなっているものの,当初計画に沿った研究成果が得られていると同時に,そこから派生して新しい研究分野が誕生しており,23年度にはこれに関連した論文も発表することができたため.
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Strategy for Future Research Activity |
現時点で本研究によって発展させた手法により,銅2核のコア修飾型フタロシアニンが合成できることが示され,またその電子状態が分子構造の違いにより大きく変化することが明らかとなった.そこで,銅以外の金属イオンを用いた場合に,同様のコア修飾が実現できるか,また実現できた場合,どのような電子状態を有しているかを検証することが重要であると考えている.そのため,今後は第一に銅と同様に平面4配位構造をとる金属イオンを用いた合成研究を進め,さらに異なる配位構造を好む金属イオンの場合に得られる錯体あ構造,ならびに電子状態の特徴を明らかにしていく予定である.
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