Research Abstract |
近年,有機エレクトロニクスの基盤物質としてのπ電子豊富化合物の探索研究が盛んに行われている.直線型多環芳香族炭化水素であるアセン類を主とした研究結果をもとに実用化が進む中,高い電子移動度とともに化学的・物理的安定性の高い分子の登場が待ち望まれている.本研究では,大量供給可能な高効率合成法により新しいπ電子共役型を設計・合成することを目的とする. 本年度は入手が容易ながら,これまで有機電子材料の基本骨格として注目されることが乏しかった比較的小さい芳香族化合物に着目し,この小さな芳香族化合物をカップリング反応を活用し,炭素-炭素単結合を介して連結した環状分子を合成した.これにより,有機電子材料への応用のみならず,新しいトポロジーの発見を達成した. ナフタレン上に2つのプロモ基が120°の角度で配置された2,7-ジブロモナフタレンからは,ナフタレンが5から7個環状に連結した3種の大環状化合物,[n]シクロ-2,7-ナフチレン([n]CNAP,n=5,6,7)を得た.[n]CNAPは高い熱的安定性を示し,リン光型有機発光ダイオード(OLED)中において,電子および正孔をともに輸送する両極性有機半導体として機能し,そのデバイスの発光効率は既存の有機材料を用いた場合と比べ,同程度あるいは凌駕するものであった. また,4つの縮環構造を有する[4]ヘリセン上に2つのプロモ基が平行に配置されたジブロモ[4]ヘリセンからは環状2量体であるシクロビス[4]ヘリセンを得た.結晶構造解析により,分子中の2つのヘリセン環が同一のらせん構造を持つことを明らかにした.この構造を線画で表すと,その化学構造式は永遠に下降し続ける階段となっており,ペンローズ父子が50年代に提唱し,M.C.エッシャーが絵画に描いた「ペンローズの階段」と同様の錯視的効果を持つことを見いだした.
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