Research Abstract |
パイロクロア型酸化物は,一般式A_2B_2O_7で表される.このBサイトからなるB_4正四面体の各頂点に磁性原子が存在し,その最近接スピン間の交換相互作用が反強磁性的な場合,隣り合う全てのスピンが反平行となる配置をとることは不可能であり,基底状態は一意的にならない.このような系をスピンフラストレーション系と呼ぶ.銅酸化物高温超伝導体では強い反強磁性ゆらぎが超伝導発現に重要な役割を果たしていると考えられており,フラストレーションによる強い反強磁性ゆらぎが予想されるパイロクロア系の物性は非常に興味深い.そこで本研究では,4d遷移金属元素であるルテニウムを含むパイロクロア型酸化物Pb_2Ru_2O_<7-δ□>において,そのAサイトを希土類元素であるYで置換した新しい置換型化合物Pb_<2-x>Y_xRu_2O_<7-δ>を合成し,磁気的,電気的性質を調べ,新たな物性の探索とその系統的理解を得ることを目的とした.試料合成は固相反応法を用いて行った,特に合成時における組成保持のため,成形体をPt箔に封入して熱処理した.粉末X線回折(XRD)による相同定および構造解析,超伝導量子干渉(SQUID)磁束計を用いた磁化率(χ)測定,四端子法による電気抵抗率測定(ρ)などにより,系統的な試料評価を行った. XRD測定の結果,Pb_<2-x>Y_xRu_2O_<7□□□□>試料では0.0≦x≦2.0の組成で単一相が得られた。Y置換愈が増加するにつれて,格子定数がVegard則に従って減少することが明らかになった.磁化率(χ)測定の結果,x=0.0において,χ□が温度に依存しないPauli常磁性が確認された.置換量xの増加に伴い,χ□が増加することが明らかになった.これは,電子相関の増大によるFermi面における状態密度の増加に対応していると考えられる.またx=0.2~2.0において,低温部分においてFCとZFCの分岐が見られ,スピンの向きがランダムに凍結されるスピングラス状態になったと考えられる.一方,電気抵抗率測定より,x=0.0において,温度が上がるにつれて,ρ□が上昇する金属的な挙動を示した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
Ru系パイロクロア型酸化物について,特に,Pbを含む化合物の固体化学的な組成制御方法を確立した。これにより,従来は明らかでなかった,固溶体の本質的な性質を明らかにすることができ,おおむね順調に研究が進展した。
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Strategy for Future Research Activity |
固体化学的な研究成果を踏まえて,より精密に物性測定を行うことにより,本系の電子相関について有意義な実験的知見をさらに積み重ねる所存である。また,従来は物質合成に研究の重点を置いていたが,今後はより物性評価法の拡充(輸送特性評価のための比熱測定やNMRによる微視的な電子状態の研究)をめざして,研究を推進する。
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