2011 Fiscal Year Annual Research Report
リチウムイオン電池のためのコンポジット正極材の開発とそれらの電池特性解明
Project/Area Number |
22550169
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Research Institution | National Institute for Materials Science |
Principal Investigator |
小澤 清 独立行政法人物質・材料研究機構, その他部局等, 研究員 (90343855)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
茂筑 高士 独立行政法人物質・材料研究機構, その他部局等, 研究員 (20354293)
藤井 宏樹 独立行政法人物質・材料研究機構, その他部局等, 研究員 (80354306)
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Keywords | リチウムイオン電池 / コンポジット正極材 / 固溶体化合物 |
Research Abstract |
本研究は、リチウムイオン電池のためのコンポジット正極材のもつ実用的・学術的な可能性に着目し、その研究を発展させることを目的としてスタートした。研究期間(平成22-24年度)に実施してきた研究項目、及びそれに関する実績の概要は以下のとおりである。 a) 固溶体化合物(Li2MnO3-LiCoO2)で、マンガンとコバルトの組成比を変えた一連の化合物を合成し、XRD、中性子回折測定からそれらの結晶構造を決定した。さらに、それらを正極材としたリチウムイオン電池セルを組立、それらの電池特性を評価するとともに、充放電サイクルに伴う固溶体化合物の結晶構造の変化を調べた。これらからは次のことが明らかになった。i) Li2MnO3-LiCoO2系の結晶構造はマンガンとコバルトの組成比に依存し、マンガン量が少ない領域では空間群R-3mのrhombohedral構造をとり、マンガン量が多い領域では空間群C2/mのmonoclinic構造をとる。ii) 充放電特性(容量、サイクル特性)も組成比に依存し、最も優れたサイクル特性はLi1.95Mn0.9Co0.15O3 (C2/m)の組成をもつ固溶体化合物で発現した。iii) Li1.95Mn0.9Co0.15O3 化合物は、充放電サイクルが進むにつれて、C2/m構造からR-3m構造へと変化した。 b) リチウムイオン電池におけるLi2MnO3 (C2/m)を正極材とした電極特性を、充放電電位範囲を変えて測定した。その結果、以下のことが明らかになった。i) 充放電容量は電位範囲化に著しく依存し、ii) 充電の上限電位が4.8V以上のサイクルでは、C2/mからR-3mへの構造変化が確認できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
得られた成果は実用的、学術的に興味あるものである。以下、それぞれの観点から成果の達成度・意義について記述する。 実用的な観点では、特に、固溶体化合物(Li2MnO3-LiCoO2)の電極特性、及び充放電に伴う構造変化を明らかにした点である。マンガンベース正極材は、大きな充放電容量、高い充放電電位、高い安全性、及び低コストなどの利点をもつ興味ある正極材である。しかし、実用的には、耐久性(サイクル特性)の向上が求められてきた。固溶体化合物(Li1.95Mn0.9Co0.15O3)を正極材として用いた場合、その放電容量は、電流密度30mAh/gで58サイクルにおいても約180mAh/gを示し、その減少率は2.4%程度であった。このような耐久性の向上には、構造が充放電に伴って比較的対称性の高いR-3mへと変化しているに起因すると考えられる。これらの結果は、実用的なマンガンベース正極材を設計する上で意義のあるものである。 一方、Li2MnO3 (C2/m)正極材で確認された充放電サイクルに伴うR-3mへの構造変化は、学術的に興味あるものである。研究代表者らは、この理由として、充電過程で化合物に導入された酸素欠損が関係していると考えた。酸素欠損によって、Mn3+に基づくヤン・テラー効果が抑制され、その結果、対称性の高いR-3m構造の生成が可能となったと考えられる。 成果は、論文(K. Ozawa, et al., J. Electrochem. Soc., 159, A300-A304, 2012)や招待講演(2nd International forum on green energy & electronic materials, and their applications, 28 -29 Mar. 2011, Wollongong, Australia)などで発表した。
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Strategy for Future Research Activity |
研究期間(平成25.4-25.9)内に、コンポジット正極材に関する電極特性、構造変化の評価を終了する。これらに関する推進方策は以下のとおりである。 リチウムホスト化合物としてV2O5を選び、これと固溶体化合物(Li1.95Mn0.9Co0.15O3)とのコンポジット正極材を作製する。コンポジット正極材については既にV2O5との組成比を変えたものをいくつか作製済みであるが、さらに、焼成温度を何点か変えたものも作製する。これらのコンポジット正極材を使用したリチウムイオン電池セルを組み立て、電極特性を測定・評価する。これらの測定では、時間の有効利用を考慮して条件(電流密度、充放電電位範囲)を変えた測定を同時並行して行う。測定終了、粉末X線回折、中性子回折、及び高分解能TEM測定を実施する。粉末X線回折、中性子回折データに基づいたリートベルト解析による精密構造解析を実施する。固溶体化合物正極材における電極反応の不可逆性は、酸素空孔の生成と深く関与していると考えられる。コンポジット正極材の電極反応を解明する上で、充放電サイクル中での酸素原子の挙動を知ることは、特に重要と考えられる。中性子回折データに基づいた解析では、このような酸素原子の挙動に関する知見を明らかにする。
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Research Products
(4 results)