Research Abstract |
FeにPを固溶限である2.8%まで添加したFe-P合金を作製し,熱処理後に圧縮試験を行い,弾塑性特性を調べた.その結果,降伏応力が上昇したが,破断応力と破断ひずみが減少し,破断後の電子顕微鏡観察から粒界破壊が支配的であり,双晶変形の発現には粒界強度の改善が必要であることが示唆された.FeにSiを固溶限である13.4%まで添加したFe-Si合金を作製し,熱処理後に圧縮試験を行い,弾塑性特性を調べた.その結果,硬さが上昇したが,塑性変形をほとんど示さなかった.さらに,X線回折の結果,硬さの上昇はSiの固溶強化より,α_1組織のDO_3構造による転位移動の阻害によると考えられた.これは双晶変形発現の可能性を示唆している一方,電子顕微鏡によるEDS解析の結果,黒鉛の析出が認められ,今後の課題となった. 擬弾性・形状記憶効果の発現には,マルテンサイト変態中にエネルギの移動を必要とする.このエネルギは熱量として外部に対して吸収・放出するので,この熱量を調べることによって形状回復の性能評価とその性能を改善する方策の検討が可能であると考えた.そこで,TiNi51.01at%とTiNi49.15at%の線材に各種形状記憶処理を施し,示差走査計による熱量評価,引張試験による力学評価,X線回折による結晶構造解析を行った.その結果,形状記憶効果における形状回復量は,変態する際の熱量に依存することが明らかとなり,これは双晶変形を推進するためのエネルギ量と関連すると考えた.さらに,擬弾性効果発現の際はより多くの熱量が必要であると推察した。さらに,B2-B19'相の間にR相が加わるとエネルギ障壁が下がったため,擬弾性効果促進のためにはR相変態の導入が鍵となると考えた. さらに,これまでの結果から新しい擬弾性・形状記憶材料の開発を検討した.Ni-Zn合金は形状記憶効果発現の報告はないが,これはマルテンサイト変態温度が高いためである.さらに,Fe-Ni合金はすでに形状記憶効果発現の報告があるが,実用化には至っていない.そこでこれら合金を基にした供試材を検討し,試験片を作製した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
実施予定の試験・解析は(a)擬弾性材料の開発,(b)材料特性評価,(c)メカニズムの検討の3つである.(a)は,Fe-Ni合金の試験が予定通り進んでいる.(b)は主にNi-Ti合金の熱分析,繰返し負荷試験,電子顕微鏡観察が予定通り進んでいる.(c)は点群による解析は順調に結果が得られているものの,分子力学シミュレーションはいまだ成果が得られていない.
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Strategy for Future Research Activity |
Ni-Ti合金とFe-Ni合金のバルク材および線材の擬弾性・形状記憶効果発現を確認するための力学試験を行うと同時に示差走査熱量計による熱分析を行い,力学-熱エネルギーの収支の観点からマルテンサイト変態のメカニズムを再検討する.さらに,新しい擬弾性材料(形状記憶材料)の探索を目的とした材料特性の検討を行う.まず,転位の移動を阻害し擬弾性効果に必要な双晶変形の発現させるために,Si,Pの添加元素を固溶限まで溶解させた低炭素鋼試験片を作製し,力学試験に供する.さらに,メカニカルアロイング法でNi-Zn合金を作製し,擬弾性効果について調べる.また,分子力学シミュレーションをモンテカルロ法に変更してB2結晶構造の解析を実施する.
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