Research Abstract |
本研究の目的は,車両に衝突される際の歩行者胸部の傷害が発生する要因を解明することである.ここでは,ボンネット車,1Box車が歩行者と衝突する場合の胸部傷害状況をシミュレーションモデルにより調査した.歩行者は,日本人男性50歳代の身長,体重を表した有限要素モデルを使用した.ボンネット車との衝突では,胸部の車に対する衝突速度は減少した.また,歩行者の胸郭については,ボンネット上のエネルギー吸収エリアが全域に及ぶため変形は一様となり小さかった.これに対して,1BOX車の衝突では,胸部の衝突速度は高く,歩行者の胸部は剛性の高いウィンドシールドフレームとの衝突により歩行者胸郭に局所的な変形と高い応力が生じた. このように,胸部傷害は,車体形状による衝突時の歩行者の挙動の違いによって,車に対する歩行者胸部の衝突速度に差異が発生し,その結果,胸部への負荷が異なる.また,胸部が接触する車体部位の構造により,剛性とエネルギー吸収特性が異なり,胸部の変形モードと変形量が影響を受ける.変形モードが局所的であれば,骨折のリスクも高くなる.これらの車体形状と胸部の衝突する部位の車体構造によって,胸部の変形量や胸郭の応力が影響を受け,肋骨の骨折の発生リスクが決まることとなる.このように,これまで交通外傷の分野で不明であった歩行者の胸部傷害発生メカニズムが明らかとなってきた.従来,歩行者の胸部負荷の評価には,歩行者のマルチボディモデル(剛体要素で構成)が使われてきたが,ここでは新たに人体有限要素モデルを用いて解析をおこない胸部傷害発生メカニズムが明確となる本研究を遂行することにより,生体力学による歩行者の交通外傷研究の飛躍的なレベルの向上を望むことができ,死亡重傷事故低減のための施策に寄与できる.
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