Research Abstract |
本研究では,ナノ結晶シリコン列における準弾道電子輸送に対する完全3次元理論を構築し,準弾道輸送現象の解明を行うことを目的とする.従来の単純化した1次元モデルを,(1)3次元空間における電子輸送,(2)一般的な配列のナノ結晶シリコン列,(3)インパクトイオン化散乱の取り込みという点において一般化する.この一般化により,準弾道輸送現象の物理的なメカニズムを解明すると同時に,ナノ結晶シリコンデバイス応用に向けて,電子放出の量子効率や放出電子の角度分布など,デバイス設計に必要な物理量の理論値を得ることを目的とする. 本年度は,(2)および(3)に関して,一様歪みのある系および原子配置乱れのある系におけるインパクトイオン化確率の計算を行った,一様圧縮歪みの場合,ナノ結晶シリコンの禁止帯が狭くなると同時に,高エネルギーにおける状態密度が低下することが分かった.前者はしきい値を低下させることによりインパクトイオン化確率を増加させる.一方,後者はインパクトイオン化確率を減少させる.モンテカルロシミュレーションの結果,しきい値低下の効果が勝り,圧縮歪みにより,雪崩増倍が増加することが分かった. さらに,実際のナノ結晶シリコンを模擬するため,分子動力学に基づく熱酸化シミュレーションを用いて,乱れたナノ結晶シリコンモデルを構築し,インパクトイオン化確率の計算を行った.熱酸化シミュレーションにより得られた原子配置モデルでは,平均的には引っ張り歪みとなることが分かった.しかし,一様歪みの場合とは異なり,乱れの影響のため,バンド端付近・禁止帯内に状態が生じ,結果的にインパクトイオン化のしきい値が低下することが分かった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では,(1)3次元空間における電子輸送,(2)一般的な配列のナノ結晶シリコン列,(3)インパクトイオン化散乱の取り込みという点において一般化することを目的としているが,(2)および(3)に関してはおおむね完了しており,(1)に関しても一部着手しているため.
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度は,結合量子ドット系に関する3次元の波動方程式からトンネル時間の運動エネルギー依存性を算出する.そこで得られた結果と,平成23年度までに得られたインパクトイオン化確率および乱れの効果を取り込んだ計算を行うことにより,電子放出の量子効率や放出電子の角度分布(放出電子の角度分布の計算にも波動関数が必要である)などデバイス設計に必要な物理量を算出すると同時に,ナノ結晶シリコン列における準弾道輸送現象の本質を明らかにする.
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