Research Abstract |
電解重合は, 電極近傍の限られた場所で進行する不均一系の反応であり, 反応点へのモノマや電解質イオンの供給を考えなければならないが, 生体組織との親和性を有し, 刺激信号の効率を低下することの無い神経刺激電極の開発が必要で, 神経インタフェース技術の展開においても極めて重要である。 導電性高分子の機能応用を考えてみると, 生体エレクトロニクスへの展開と言うことも十分期待できる。導電性高分子を電極として利用することを考えと, 導電性高分子と生体細胞との親和性は重要となる。このような導電性高分子が金属と比較して高い生体適合性を有するならば, 医用生体工学における新しい人工臓器材料としての機能応用が期待され, 導電性を有することから人工視覚, 人工聴覚あるいは人工網膜などに用いられる体内埋め込み型神経刺激電極の開発を基本とする神経インタフェース技術の新たな展開, 進展が考えられる。 マウス結合組織由来の線維芽細胞株L929 細胞およびマウス骨格筋由来筋芽細胞株C2C12 細胞を導電性高分子膜(PPy およびPEDOT)上に蒔いて, これら細胞の増殖過程を観察した。L929 線維芽細胞およびC2C12 筋芽細胞は, 形態を変えることなく市販のディッシュ上で培養した細胞と比較して, ほぼ同様に増殖し親和性を保持していることを観察した。また, C2C12 筋芽細胞は, これら導電性高分子膜上で, サブコンフェルト後に分化誘導を起こして筋管線維細胞を形成することが確認できた。言い換えれば, 本実験で使用した2 種類の導電性高分子, PPy 膜およびPEDOT 膜は, それらの表面で培養した細胞の分泌機能を保持していることが分かった。従って, PPy 被服電極やPEDOT 被服電極は, 細胞を培養するのに有効であることから, 生体適合性のある神経刺激電極として利用できる可能性を示唆した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
電解重合のフラクタル成長形態は, 自然界の様々なところで見られるが, 神経線維, 特にニューロンの先端部の形とも類似している。従って, 広葉状の導電性高分子をニューロンの核部に対応させると, 針葉導電性高分子はニューロンの樹状突起(軸策)とみなせる。この知見をもとに特定の枝を選択的に成長させ, 針葉状導電性高分子の先端同士を接触させることができる。接続される針葉状導電性高分子の本数, 長さ, 太さなどは重合条件に依存する。現状では, 広葉状導電性高分子のどの箇所から針葉状導電性高分子が発生するかは特定できないが, 重合時の電流, 電圧あるいはモノマ濃度を変えることでフラクタル成長の形状, 方向, 大きさなどは制御可能である。この知見をもとに生体の神経系をモデルにしたニューロン型デバイスを考えると, 生体エレクトロニクス材料の生体親和性を調べる必要がある。予想したように導電性高分子膜上での培養実験は, 電解重合過程で導電性高分子膜表面に付着したり, 内部に含有している不純物(未反応モノマー, 反応過程で生成されるオリゴマーなど)を除去するため,ITO 導電性ガラス基板からPPy, PEDOT を剥離することなく蒸留水, アセトトリル, エタノールで十分洗浄し, 乾燥した。ディッシュに導電性高分子被覆ITO導電性ガラス基板を入れ, 継代を実行する。形態制御した導電性高分子の生体親和性は極めて良好であったが, 微弱電流を流した場合の生体親和性実験については, 信頼性のある結果はまだ得られていない。現状では, マイクロアンペアオーダの電流を流した場合, 生体親和性は認められるが, マウス結合組織由来の線維芽細胞株L929 細胞およびマウス骨格筋由来筋芽細胞株C2C12細胞が真に電流の影響を全く受けていないかという疑問が浮き彫りになった。この問題点を明確にするための実験を要する。
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Strategy for Future Research Activity |
生体適合性分子通信素子, すなわち生体の神経系類似の形態を導電性高分子で作製し, 入出力信号を導電性高分子のドーパント量で制御し, 樹枝状形態をシナプスに見立てた情報伝達を試みる。情報の授受は, ドーパントの出入りとドーパント量の大小に関係するが, 早い応答が望ましい。このようなニューロン型デバイスを構築するために, 電解重合反応に及ぼす諸因子の影響(溶媒, モノマや電解質の種類や濃度などの反応液の組成, 重合電圧や電流密度, 重合温度など)についてやはり十分把握しなければならない。電解重合では, 反応因子がラジカルカチオンの発生, カップリング, 脱プロトンと続く各反応ステップで反映される影響が極めて重要となる。また, 電解重合では, 溶媒は電解質を解離させなければならないので極性溶媒である必要があり, 溶媒と電解質アニオンの選択性が重要になる。電解重合反応の支配的因子の検討は, 今後も並行して実施なければならないと考える。なぜなら, 電解重合反応は電極近傍の極めて限られた不均一系の反応であり, 電解液の組成や電解条件など種々の諸因子が非常に複雑に関与しているため単純には電解重合反応の機構を結論できないという難点がある。 導電性高分子が金属と比較して高い生体適合性を有するならば, 医用生体工学における新しい人工臓器材料としての機能応用が期待され, 導電性を有することから人工視覚, 人工聴覚あるいは人工網膜などに用いられる体内埋め込み型神経刺激電極の開発を基本する神経インタフェース技術の新たな展開, 進展が考えられる。微弱電流を流した時の親和性についてフラクタル成長させた重合体を用いて実施する予定である。フラクタル状導電性高分子が発生する箇所と節点数を確実に制御する技術の確立が急がれ, 重合物の任意の場所にパルス信号を入力することで制御できるのではないかと考える。
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