2010 Fiscal Year Annual Research Report
石窟寺院への憧憬―岩窟/絶壁型仏堂の類型と源流に関する比較研究―
Project/Area Number |
22560650
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Research Institution | Tottori University of Environmental Studies |
Principal Investigator |
浅川 滋男 鳥取環境大学, 環境情報学部, 教授 (90183730)
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Keywords | 石窟寺院 / 岩窟型仏堂 / 懸造 / 岩陰 / 密教 / 奥の院 / 文化的景観 / 復元 |
Research Abstract |
初年度は鳥取市の喜見山摩尼寺「奥の院」遺跡で発掘調査をおこなうとともに、国内外の関係遺跡・建造物を調査した。摩尼寺は帝釈天降臨と円仁再興の縁起をもつ天台宗の寺院で、現在の境内は山麓にあるが、山頂近い標高約290mの地点に「奥の院」の遺跡が残っている。そこには岩窟・岩陰の二層構造の仏堂が現存し、その正面には2段の加工段(平坦面)が形成されている。初年度は「奥の院」の4ヶ所に計200m^2のトレンチをあけ、約4ヶ月をかけて発掘調査した。下層で平安時代の柱穴と井戸跡、上層で室町時代後期以降の大型仏堂跡(8間以上×8間以上)を検出した。遺物は8世紀以前に遡る土器が出土しており、行場としての出発が奈良時代に遡る可能性があるものの、下層における加工段と建築物の出現は10世紀以降に下るであろう。 2010年9月には、中国甘粛省で麦積山石窟、仙人崖、敦煌莫高窟・楡林窟などを視察した。山西省大同の雲岡石窟寺院では、石窟仏堂の正面に礼拝のための木造礼堂を設け、全体を「内陣礼堂造」としていたが、甘粛の場合、礼堂にあたる木造建築はなく、石窟正面に窟櫓(片流れ屋根の差し掛け庇)を設けるのみであった。11月には韓国慶州を訪問し、石窟庵と南山を視察した。前者は華北の石窟寺院を思慕する人工の石窟寺院であり、後者でみる磨崖仏と複合した岩窟仏堂は山陰方面のそれとよく似ており、一部で木造建築の痕跡を確認できた。国内では、大分県の六郷満山を視察した。六郷満山の密教寺院群は8世紀に宇佐八幡の神宮寺(弥勒寺)の行場として創建されたものであり、いまも「奥の院」が境内の一部として活用されている。しかも、神仏習合が早くから進んでおり、奥の院の正殿は「本殿」と称される。その本殿形式には、素朴な差し掛け庇タイプから、流造、入母屋造など多彩であり、摩尼寺「奥の院」遺跡建物復元の参考となった。
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