Research Abstract |
研究初年度である今年度は,ホウケイ酸塩ガラスにおける「応力誘起高密度化のガラス組成依存性の評価」を目的として研究を進めた。圧縮応力下における構造変化のみならず,ファイバー曲げ試験による引張り応力下におけるガラスの構造変化にも着目して実験を行い,圧縮応力と引張り応力では異なる構造変化が生じることを明らかにした。 ガラスは破壊直前に局所的に高い応力が負荷されるため,高応力下での構造変化を理解することは,ガラスの破壊現象を理解するために重要である。さらに,応力下での構造変化は,空隙などの構造自由度と関係するため,次年度以降の光誘起構造変化の研究に適したガラス組成を探索するためにも重要な特性である。 圧縮応力下の試験については,種々のホウケイ酸塩ガラスにダイヤモンド圧子を用いて押し込み試験を行い,全押し込み変形に対する高密度化変形の割合を評価した。高密度化による体積収縮は,ガラス転移温度近傍の熱処理により緩和するため,熱処理前後の押し込み変形痕の体積から,高密度化変形の割合を決定できる。その結果,ホウ素を含有するガラスの高密度化割合は,3配位ホウ素の存在比と関係していることを明らかにした。 一方,ファイバー試料を用いた曲げ試験では,破断面近傍の引張り応力付加部位の構造をラマン分光法により評価した。その結果,ホウケイ酸塩ガラスは,引張り応力下でも構造変化を示し,その挙動は圧縮応力による場合とは異なることが分かった。圧縮応力下では,Si-O-Si結合の平均結合角の減少と対応する永久構造変化が生じるのに対し,引張り応力下では平均結合角の増大が起こることを初めて明らかにした。さらに,ホウ素を含有するガラスは応力誘起構造変化が顕著であり,破壊前の非弾性的な変形が起こり易いガラスであると言えた。
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