2012 Fiscal Year Annual Research Report
表面脱離を利用した金属内含有水素の挙動およびその応力測定
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22560709
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Research Institution | National Institute for Materials Science |
Principal Investigator |
板倉 明子 独立行政法人物質・材料研究機構, その他部局等, その他 (20343858)
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Project Period (FY) |
2010-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 材料表面 / 水素放出 |
Research Abstract |
脆性破壊のもととなる水素の、鋼内表面近傍での挙動を電子励起脱離法によって直接的、定量的に観察し、存在位置と含有量を明らかにする事を目的とし、電子衝撃脱離(以下ESD)の二次元像を用いて、鋼のどの部分に水素が含有されるかについては解析した。100μmから300μmのステンレスSUS304鋼の薄板を用い、背面から水素を供給して、透過してくる水素をESDを測定した。 機械加工したステンレス鋼はオーステナイト相にマルテンサイト構造の含まれた構造である(光顕微鏡写真および、X線散乱より確認)。加工痕の残る試料を用い、ESDの二次元マッピングを行った結果、加工転位の多く残る部位(以下O部)からの水素放出は、転移の少ない部位(以下I部)に比べて大きいことを確認した。表面の形状(40μm旋盤加工の周期)と、同形状の水素イオン脱離の周期性が観察され、O部とI部では水素イオン脱離の温度依存性も異なることが確認された。 昇温中の試料表面では電子衝撃脱離と熱脱離が同時におこり、そこに背面から水素が供給されるので、O部とI部の違いは、薄板内部の拡散によるものであると推測している。また、昇温実験ののちにオージェ電子分光法で表面分析を行ったところ、もともとの母材である鉄やニッケルについてはO部とI部で差がなかったのに対し、O部の方がより酸化が進んでいたことが分かった。 極高真空の残留ガスの主成分でもある水素が、ステンレス鋼など真空容器を作る素材表面からどのように脱離するかは、真空環境の研究においても大きな意味があるが、加工による表面の乱れなど、微視的な測定が行われたのは、この研究が初めてである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究協力者である学生の交代などで、予定通りの実験が進んでいないため、実験データの再現性の確認などが遅れている。特に、時間応答性が重要なダイナミカルな系での測定となるため、温度揺らぎや一定温度にしてからのサンプリング時間など、先行実験と追実験の条件合わせで手間取った。 しかしながら、国際会議、国内学会等での発表は、(前任者のいる)年度初めのデータを用いているので、予定通り行った。
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Strategy for Future Research Activity |
水素の吸着、拡散、脱離を考えた時、ダイナミカルな鋼材の構造変化が問題になっており、そのバランスに着目する実験を行ってきた。昨年度予定していた追実験が、今年度に繰り越されているので、それを行う。一定の結果が得られたのち、オーステナイト構造とマルテンサイト構造の比率を変えた試料を新たに作成し、比較実験となる測定を行う。また、透過してきた水素と、材料に固溶されている水素、真空容器内から表面に吸着した水素を区別するため、重水素を用いた実験も行う。 研究の最終目標である表面応力との関連付けを確認するために、積極的に冷感加工を施した試料を用いた実験を行う。表面応力の実験に関しては、予定以上に進んでいるので、データの信頼性向上のために、同じ条件での追加実験を行う。
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